オンライン対談開催! 愛犬の歯磨きどうしてる?

講師の先生×飼い主さん×ワンちゃん紹介

講師
遠山洋美先生 
獣医師
遠山先生
麻布大学修士課程修了。日本小動物歯科研究会会員。ライオンペット株式会社において、歯磨きセミナーの実施など、ペットのオーラルケア普及に努めるほか、オーラルケア製品の開発にも携わっている。
中村さん(仮名)、ビットくん
(スムースコートチワワ、男の子/7カ月)
仕事をする男性と子犬
『みんなのブリーダー』編集部のチーフディレクターである中村さんがチワワを育てるのは、これが2度目。2021年12月にブリーダーからチワワのビットくんをお迎えして、すぐに歯磨きの練習をはじめたそう。
オンライン対談中、中村さんに抱き上げられたり、口を触られたりしても、一切動じないビットくん、普段からおおらかでマイペースなのだとか。
大原さん(仮名)、シュンくん
(ヨークシャーテリア、男の子/1歳5カ月)
ヨークシャーテリアと女性
同編集部でWebディレクターを務める大原さんが、憧れのヨークシャーテリアを迎えたのは2020年のこと、一人暮らしで愛犬シュンくんの育犬に奮闘中。元気すぎて歯磨き練習は苦戦中とか。気分屋さんで、やんちゃな一面も見せるシュンくんですが、飼い主の大原さんが向き合い方を学ぶことで関係性を構築しています。
司会/みんなのブリーダー編集部 ライター

歯磨きの練習はいつからはじめるのがベスト?

リラックスしているチワワの子犬

子犬をお迎えしてすぐ~生後4カ月くらいまでの間が理想

司会:まずは、おふたりの歯磨きの様子からお聞かせください。

中村さん:ビットを迎えると同時に歯磨きグッズを買いそろえて、日々あれこれ挑戦してきました。シートや指にはめるタイプの歯ブラシも使っていましたが、今は歯ブラシをメインで使い、忙しいときはシートを利用する、というスタイルです。

実はチワワを飼うのはビットが2代目となるのですが、先代犬のチワワは、神経質なところがあって、きちんと歯磨きができなかったんです。幸い19歳という天寿を全うするまで歯を残してはいたのですが、口臭は気になりました。それで、ビットはしっかり歯磨きしようと、はりきっていましたね。

司会:迎えてすぐというと、ビットくんの場合は生後2カ月ごろでしょうか? 歯磨きをはじめるタイミングとしては、そのくらいが理想なのでしょうか。

遠山先生:早くはじめていただくに越したことはありません。まずは口周りに触るところからはじめてみてほしいですね。
とくに生後3週間〜4カ月頃は子犬の社会化期※、さまざまな刺激や環境に慣れさせるのに適した時期なので、この頃に歯磨きの練習をはじめるとよいでしょう。トイレのしつけと同じレベルで歯磨きも定着させてほしいですね。

※社会化期
生後3週間~4カ月頃の子犬期。好奇心が警戒心を上回る時期であるため、子犬が外部からの刺激を受け入れやすい時期といわれている。

普段から口周りを何気なく触っていると、ワンちゃんも身構えない

大原さん:うちも、子犬のうちに歯磨きに慣れさせたいな、と思って早めにはじめてはいたのですが、なかなかうまくいきませんでした。
口周りはなんとか触らせてくれるようになりましたが、口の中に指以外のものが入ることに抵抗があるようで、嫌がります。

ご褒美をあげながら慣れさせようとしていると、今度はご褒美を期待しすぎて逆に落ち着かなくなってきてしまって……。今は歯の表面をシートでこする、ガムやおもちゃでケアする、月に一度トリミングサロンで歯磨きをしてもらう、ということでせいいっぱい。

遠山先生:まずは、口の中を触る練習を時間を掛けておこない、次のステップとしてシートを使ったケアができるとよいですね。
最初は、奥歯にちょっと触る程度。それだけで褒めてご褒美をあげる、ということを繰り返していきます。最初から全部触れなくてもOKです。
シートも犬にとっては異物感があるものなので、こちらも徐々にでよいでしょう。

すでに口周りをさわれるのであれば、普段から何気なく触ってみます。
歯磨きのときだけ触ると、ワンちゃんも構えてしまうんですよね。飼い主さんの緊張も伝わってしまいます。

ガムやおもちゃを併用するのはありです。トリミングサロンでのケアもよいですが、月に1回のケアでは万全とはいえないので、やはり家での日常の歯磨きが大切になります。

おやつをあげながらの歯磨きでも、歯はきれいになっている?

仮の写真

歯石に変わる前に汚れを取る、ことを繰り返していれば大丈夫

司会:シュンくんはおやつを催促するようになってしまったということですが、歯磨きの後におやつをあげることで、おやつのあげ過ぎになってしまったり、余計汚れてしまう、ということはないですか?

遠山先生:おやつが本当に小さいものであれば、体重が増えすぎたり、歯にこびりついたり、といった心配はありません。ワンちゃんは量ではなく「ご褒美がもらえる」という体験が大事なので、小さいものをちょこちょこあげることをおすすめします。

歯を磨いた後に、おやつをあげるのは抵抗があるかもしれませんが、歯に歯垢がついてから歯石に変わるまで3~5日あるので、その間に除去できればいいんです。
まずはおやつによる歯への影響というより、歯磨きに慣れてもらうことを重視した方がよいでしょう。

歯磨きができていれば、おやつの素材は気にしなくてOK!

中村さん:素材はどうでしょうか。なるべく歯にくっつかないものをあげたほうがいいのかな、と思うのですが、たとえば口の中に残りそうなボーロなどをあげても問題ない?

遠山先生:素材はあまり気にしなくてもよいと思います。ただ食事の話ですと、ウェットとカリカリでは、ウェットのほうが、歯につきやすいのは事実です。ウェットフードを与えている方は、よりしっかり歯磨きへの意識をもっていただきたいですね。

口が小さい犬や、生え変わり期の歯磨きで気を付けることは?

ヘッドが小さくてやわらかい歯ブラシがおすすめ。力加減も大事!

大原さん:歯ブラシで奥歯を磨こうとすると、強く嫌がりそうで不安です。

司会:シュンくんのようなヨークシャーテリアは、お口も小さいので、奥歯のケアはとくに大変そうですね。

遠山先生:お口が小さいワンちゃんには、ヘッドが小さい歯ブラシで、厚さもなるべく薄いものがおすすめです。

力加減は、歯ブラシを手の甲に当てて歯ブラシの毛がしなるくらい。測りで「100g」になる程度。結構ガシガシする飼い主さんもいるのですが、当たったときに痛くて、これが原因で歯ブラシを嫌がるワンちゃんも多いんです。
歯周ポケットの汚れを取るためには、なるべく柔らかくて毛が細いワンちゃん専用の歯ブラシを使うとよいでしょう。

中村さん:チワワの口も本当に小さくて……奥の方の歯は見えにくいです。

遠山先生口角をひっかけて唇を持ち上げると、奥歯が見えやすくなります。奥歯の上あたりは、唾液腺があるので、歯石がつきやすいんですね
唾液の成分であるカルシウムが、歯垢に蓄積して歯石になるので要注意です。

まずは奥歯を「見る」練習が必要です。次に、奥歯に歯ブラシがしっかり当たっているかを意識しながら、磨くことに挑戦してみてください。

歯ブラシは濡らしたほうが違和感が減る。 グラグラ乳歯はノータッチ

司会:ビットくんは生後7カ月になるそうですが、歯はもう生え変わっている?

中村さん:まだ乳歯も残っています。磨いているとグラグラする歯があるのですが、そういう歯は歯ブラシで磨かないほうがいいのでしょうか?

遠山先生グラグラする歯は、デリケートになっているので、あまり歯磨きはしない方がいいですね。ほかの部分であれば、本人が嫌がらなければ続けても大丈夫です。
犬の場合、永久歯は乳歯の下から併存しながら生えてきます。
永久歯へ生え変わるときの歯茎は、軽い炎症を起こしていますので、歯ブラシが当たると痛いので気を付けてください。

中村さん歯ブラシを使う際、乾いた状態を嫌がるので、水で濡らしているのですが問題ないですか。

遠山先生:それが正解です! 乾いている状態だと痛くて嫌がるワンちゃんも多いので。
さらに言うと、歯ブラシは、鉛筆を持つような持ち方のペングリップが、細かいところまであてられるのでおすすめですよ。

歯ブラシを噛んだり、歯磨きジェルだけ舐めたりする時の対処法

歯ブラシを噛みだしたら、いったん口から出すのが正解

中村さん:毎日磨いてはいるのですが、本当に磨けているのかどうかは不安です。昨日の歯磨きの様子を見ていただけますか?

司会:嫌がっていないですが、カミカミしちゃってますね(笑)

遠山先生:歯ブラシをしっかり口に入れることができていて素晴らしいですが、ブラシを噛んでるだけではケアにはなりません。落とせるとしても、あくまで表面に出ている汚れだけになってしまいます。噛ませるだけでなく、ちゃんと歯に当ててケアするのが理想です。

中村さん:噛んでしまうときの対処法は何かありますか。

遠山先生歯ブラシをワンちゃんが噛みはじめたら一旦抜くことが大事です。ずっと口内に入れて噛んでいると、「噛んでいいんだ」と認識してしまうので。
しばらくしてからまた歯磨きをして、噛んだら中断、噛まなかったらご褒美をあげる、を繰り返します。

ジェルだけ舐めてしまわないように、少しずつ付けては磨くを繰り返す

大原さん:おいしい味がするので、歯磨きジェルだけ舐めようとするのですが……。

遠山先生:コップ一杯の水と、歯磨き1回分のジェルを小皿に用意して、少しずつジェルを付けながら磨くのがおすすめです。少し磨いたら歯ブラシをコップの水ですすぎ、また少量のジェルを付けて、という方法がよいと思います。

歯ブラシと歯磨きシートは併用がおすすめ 歯と歯茎の境目は歯ブラシの出番

中村さん:歯磨きシートだと歯が当たってる感じがするので。歯ブラシよりも歯磨きをしている実感があります。シートと歯ブラシの併用はありでしょうか。
遠山先生:ありです。歯ブラシだと分かりづらいのですが、歯磨きシートを使ってケアしていると、ワンちゃんには結構奥まで歯があるんだな、というのが分かってもらえると思います。「どの歯にあたっているか」を見ながら磨くことができる点では、シートもおすすめです。ただ、シートは表面の汚れを落とすのには適していますが、歯と歯茎の間の歯垢は落とせないので、そこは歯ブラシを使うとよいでしょう。使い分けするのがおすすめです。

中村さん:歯磨きをしても、歯ブラシやシートに何もついていないので、ほんとに汚れが落ちているのかわからず、正直あまり達成感がないのですが……。

遠山先生:むしろそれを「いい状態」と捉えてほしいです!「汚れが取れた」ことに達成感を得るのではなく、キレイな状態を維持している、ということに達成感を感じて欲しい。
歯が黄色・茶色になってしまってから、歯石がたくさん付いてからでは、歯ブラシでは落ちないので。
とくに汚れが溜まりやすいのは奥歯なので、そういった箇所を意識して磨けるといいですね。

なかなか上手くいかず、焦りがでてきてしまったときは

歯磨きの際は、ワンちゃんをリラックスさせつつしっかりホールド

司会:大原さんは、どのようにしてシュンくんの歯磨きをしていますか?

大原さん:膝に載せて、両手でだっこして固定して磨いています。

遠山先生飼い主の胸やおなかにワンちゃんの背中をくっつけるようにすると、ワンちゃんは安心します。その点を意識してホールドできているのがいいですね。ただ、奥歯は見えづらいので、唇をめくって奥歯が見えるように磨く練習ができると尚よいです。

さらに、仰向けだと奥歯が見やすいのでおすすめです。ただ、その体勢にまずワンちゃんを慣らす必要があるんですよね。

膝の上でリラックスしてるときがチャンス! 歯磨きのためにこの体勢を取ってもらうのは大変なので、この瞬間をねらって歯磨きできるとベストです。

思いつめず、完璧を目指すよりも継続を心掛けて

大原さん:1歳過ぎてしまって、なかなか思うようにいっていないことに焦りがあります。

遠山先生:「毎日やらなくちゃ」「全部の歯を磨かなきゃ」と、完璧を目指そうとすると飼い主もワンちゃんもストレスになってしまいます。できるところから、小まめなケアを積み重ねるという意識をもつとよいですね。何よりも続けることが大事です。

大原さん:日頃からちょっとずつ触ってみて、まずは1本からでも…というところからやっていくとよさそうですね。

遠山先生:ワンちゃんは短時間しか歯磨きに耐えられないもの、と思った方がよいです。できるだけストレスフリーにおこなうには、遊び感覚、コミュニケーションの一つとして取り組むのが理想です。

歯磨きはこの後10数年つきあっていくものです。まずはシートからでも全然OKです。完璧を目指しすぎて、途中であきらめてほしくない。細々とでもいいから続けていれば、絶対に将来「やってよかった」と思えるはずです。

歯磨きしないとどうなる? 歯石がついたらどうする?

リラックスしているチワワの子犬
司会:歯磨きを完全にあきらめてしまうと、どのようなリスクが生じるでしょうか。

遠山先生:ワンちゃんは歯垢が歯石になるスピードが人より速いです。
歯垢と歯石の蓄積を放置すると、歯茎に炎症が起きて、歯周病になってしまいます。
そして、歯周病は、歯茎の病気というだけでなく、全身的な健康とも関係しているといわれます。
だから、いつまでも健康でいてもらうために、歯磨きをあきらめてほしくないんです。

中村さん:歯石になってしまった場合はどうすればよいですか。

遠山先生:歯石になったら歯磨きでは取れないので、病院でのスケーリングという処置になります。ですから、なおさら自宅での日々のケアを大事にして欲しいですね。

口臭がでてきたら、お口のトラブルを疑って

大原さん:なるほど。私もトリミングサロンに歯磨きをお願いしていますが、それだけで安心せず、自宅での歯磨きも根気よく続けていこうと思います。

中村さん:口臭がある時点で口の状態はかなり悪くなっているのでしょうか?

遠山先生:そうですね。口臭がある時点で、歯周病の疑いがあります。口臭はお口の健康チェックの有効なバロメーターです。ワンちゃんの場合、生理的な口臭は常にありますが、気になるレベルの口臭や最近臭いが強くなってきたと感じるときは、お口周りのトラブルを疑うべきなのです。

中村さん:先代の子はケアが行き届かず、口臭がありました。ビットはそうならないように、日々ケアしていきたいと思います。

対談後の感想は?

司会:矢継ぎ早に質問がでて、あっという間の1時間でしたが、本日のオンライン対談は、いかがでしたでしょうか。

大原さん:改めて歯磨きをしっかりやっていこうという気持ちになりました。
できなくて落ち込まず、前向きに、できることから少しずつやっていきたいです。
▲大原さんと片時も離れないシュンくん
中村さん:歯ブラシと歯磨きシート、どちらかを使えばよいと思っていて、忙しいとついラクなシートを使いがちでした。シートでは歯と歯茎の間の歯垢は落とせないから、歯ブラシとの併用がおすすめだということを聞いて、認識を改めました。飼い主の心がけ次第だと思うと、責任を感じますね。
▲中村さんご夫妻に見守られ、すくすくと成長するビットくん
遠山先生:おふたりともまじめにワンちゃんの歯磨きについて考えていて、素晴らしいと思いました。歯磨きについて全然考えてない方もいる中で、意識をされてるだけでも、まずは十分素晴らしいことなのです。
ビットくんもシュンくんも、まだまだ小さいので、これからも歯磨きを続けていけば、7~8歳頃に「やっててよかった!」と実感できるはずです。気負わず、遊び感覚をもって、続けて欲しいと思います。
▲飼い主の不安に寄り添い、励ましの言葉をかけてくださる遠山先生

編集後記

司会:ワンちゃんの歯磨きグッズを多数開発するライオンペット株式会社にて、商品開発やペットの歯磨き啓蒙活動に力を注ぐ遠山先生、これまでさまざまな飼い主さんを見てきただけあって、その悩みも熟知されているようでした。歯磨きを頑張っている中村さんも、不安を感じている大原さんも、遠山先生の言葉に励まされ、また意気込みを新たにしたようです。

対談開始時は、飼い主さんにまとわりついていたビットくんとシュンくん、最後のほうは、うつらうつらしてきてしまいました。こんなふうに安心して眠れるのも、日々愛情を注いでくれる飼い主さんあってのことですね。
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