犬がおしりを気にする5つのしぐさ

おしりを気にする犬
まずは、犬がおしりを気にしているときに見せるしぐさを紹介します。

おしり歩きをする

犬はおしりが気になると、おすわりの状態で、前脚だけを使ってスリスリとおしりを床にこすりつけながら前に進むことがあります。そのコミカルな動きは、一見すると飼い主の目には愛らしく映るかもしれません。

敷きものや床におしりをこすりつける

床や地面、カーペットなどにおしりをこすりつけるのも、犬がおしりを気にしているしぐさです。このしぐさは「スクーティング」とも呼ばれます。

おしりを舐める

犬は人間のように手が使えないので、体に異変があるとそれを舐めて取り除こうとします。おしりを気にしている様子がもっとも分かりやすいしぐさかもしれません。

しっぽを追いかけてぐるぐる回る

好奇心旺盛な子犬期には、遊びの一環としてよく見られる行動ですが、通常は成長とともになくなるしぐさです。
ただし、飼い主がこの行動に対して、褒めたりなでたりといった反応を示すと、犬は飼い主に褒められたい、喜ばせたいという気持ちから行動をエスカレートさせることもあります。

また、しっぽや肛門周囲にかゆみや違和感を感じると、舐めようとしてしっぽを追いかけてぐるぐる回ることがあります。

おしりのにおいを嗅ぐ

犬同士は、お互いにおしりを嗅ぎ合ってあいさつをしますが、自分のおしりを嗅ぐのは体調の変化や化膿性のにおいなどの違和感からくる行動かもしれません。

おしり歩きにはこんな危険も

高野 航平

犬がおしりに違和感や痛み、かゆみなどを感じると、おしりをこすりつけたり、しきりに舐めたりします。おしりに口が届かないと狂ったようにしっぽを追いかける行動がみられることもあります。

こういった行動を放置すると、こすったり舐めたりすることで肛門や周辺の皮膚が炎症を起こしてしまったり、肛門嚢に雑菌が混入して肛門嚢炎を起こしたりする危険性があります。

また、ぐるぐる回る行動はストレスや脳神経疾患による行動異常の可能性もありますので、おしりを気にするしぐさが見られたときはかかりつけの先生にもご相談ください。

犬がおしりを気にする理由は? 

おしりを気にする犬
愛犬がおしりを気にするしぐさを見せたとき、まず必要なのは原因を知ること。緊急性や受診の必要があるかなど、適切な判断をするためです。
愛犬のおしり周りをチェックし、異常がないか確認してみましょう。

汚れている

セルフグルーミング」といって、おしりについた排泄物の汚れや異物を落とすために、おしりを舐めることがあります。
これは犬の本能的な行動で、毛づくろいの一種。肛門やまわりの皮膚に赤みなどが異常がなく、ときどき見られる程度であれば、それほど心配する必要はないでしょう。

寄生虫がいる

瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)といった、寄生虫が感染している場合もあります。
瓜実条虫症は、ノミが媒介する寄生虫ですが、そのノミを犬が体内に取り込んでしまうことで感染します。

肛門周辺に瓜実条虫の片節と呼ばれる体の一部が付着し、かゆみが生じると、おしり歩きやおしりをこすりつけるしぐさを見せます。
片節は目視で確認できるので、おしり周りやうんちに米粒のようなものが付着していないか、犬がよく寝ている場所に落ちていないか、確認してみてください。

また、瓜実条虫症は通常は無症状ですが、寄生数が多いと、下痢や軟便、食欲不振といった症状が現われることもあるので、愛犬の体調や便の状態をチェックしてみるのもいいでしょう。

そして、原因となるノミやノミの糞がないかも、合わせてチェックしてみましょう。

肛門嚢が炎症を起こしている

肛門腺に分泌液がたまっていることで、違和感を抱いている可能性も考えられます。
また、分泌液がたまり過ぎるとおしりをこすりつけたり舐めたりすることで「肛門嚢炎(こうもんのうえん)」を引き起こし、しっぽを追いかけるような動作を示すことがあります。

自分で分泌液を排出するのが難しい小型犬や分泌液の粘度が高い犬、高齢犬などが多く発症し、赤く腫れたり出血したりといった症状が見られます。

肛門腺とは? 

犬の肛門嚢の位置
肛門腺は、肛門の両脇にある一対の分泌腺のことで、時計にたとえると、4時と8時の方向にあります。
袋状になっていることから、「肛門嚢(こうもんのう)」とも呼ばれています。この肛門嚢の中に、「肛門嚢液」あるいは「肛門腺液」といわれる分泌液が入っています。

分泌液は、液状やペースト状、薄黄色や黒茶色など、個体差が大きいのが特徴です。
犬同士の識別や縄張りを主張する役割を持ち、犬にとっての身分証明書のようなもの。そのため、肛門腺のにおいは一頭ずつ異なります。

肛門腺絞りは必要?

肛門腺に分泌液がたまり過ぎると、おしりをこすりつけたり舐めたりすることで肛門嚢炎などを引き起こすほか、肛門周囲の体臭が強くなることもあります。

肛門腺は、犬が狩猟の際に、自分のテリトリーを誇示するために発達した器官。本来は、肛門腺から出る分泌液は便と一緒に自然に排出されるものです。

ところが、現代の犬は人間と一緒に暮らすようになり、マーキングをする機会が減ったため、「肛門括約筋」と呼ばれる筋肉が弱っているといわれています。
そのため、定期的に肛門腺絞りをする必要があるのです。

肛門腺絞りの頻度は? 子犬は生後何カ月から?

肛門腺絞りの頻度は個体差がありますが、月に1回を目安におこなうのがおすすめです。

分泌物のにおいが強いので、シャンプー前に絞って洗い流すのがおすすめです。

子犬の場合、生後何カ月からという明確な決まりはありません。肛門腺が溜まっていたら、月齢に関係なく定期的に肛門腺絞りをおこないましょう。

定期的な肛門腺絞りを

高野 航平

肛門腺の分泌液は排便時に自然と排泄されるものですが、品種改良などが進んだ小型犬種などでは自力での排泄が難しいことが多いため、定期的に絞ってあげる必要があります。

また、肛門腺の分泌液は犬によってサラサラした液体からドロドロの粘度の高いものまでさまざまです。粘度が高いものは自然に出にくかったり、乾燥して肛門腺の出口を栓のように塞いでしまったりるすることがありますので、分泌液がドロドロしている子は絞ってあげた方がよいでしょう。

若い頃は肛門腺を絞らなくてよかった子でも、高齢になって肛門括約筋(おしりの筋肉)が衰えると自力では出せなくなってくることがありますので、足腰が弱ってきたら肛門腺絞りの必要性も意識していただければと思います。

【獣医師執筆】肛門腺絞りのやり方

肛門腺絞りの基本的はやり方は以下のとおりです。

1.片手でしっぽを持ち、やや頭側に傾けるように持ち上げる
犬の肛門絞りのやり方
2.肛門周囲を人差し指と親指で挟み、4時と8時の方向に肛門腺の膨らみを確認する
犬の肛門絞りのやり方
3.膨らみを下から上へ押し上げるように肛門側にむかって(奥から手前へ)押していく
犬の肛門絞りのやり方
4.何度か繰り返し、分泌液まで出なくなるまで繰り返す
5.肛門周りをキレイにする
肛門周囲はとてもデリケートですので、力を入れすぎないように気をつけましょう。

分泌液は強烈なにおいがするので、シャンプーのときにお風呂場で絞ってシャワーでおしりを洗い流すか、分泌液が飛ばないようにティッシュやトイレットペーパーなどで肛門を覆い隠してから絞るとよいでしょう。

通常は月に1回程度ですが、ワンちゃんによっては2週間くらいで溜まってしまう子もいるので、おしりを気にするしぐさが見られたら絞ってあげましょう。

分泌液の色がもし血混じりの色をしていたり、クリーム状の膿になっていたり、緑色になって細菌感染を起こしているようであれば、肛門嚢炎を起こしている可能性があります。絞った時にいつもより嫌がったり、痛がったりするときもかかりつけの先生に診てもらってください。

犬が小さすぎて肛門腺の位置がわかりにくい、しっぽがなくて難しい、おしりが筋肉質でどこにあるかわからないようなときは、無理せずトリミングサロンや動物病院で絞ってもらってくださいね。

【番外編】おしりからわかる犬の気持ち 

犬のおしり
犬は、感情表現がとても豊かな動物。飼い主への愛情や信頼を伝えたいといった、ポジティブな理由でおしりを使ったしぐさを見せてくれることがあります。

おしりを向けて寝る

犬にとっておしりは急所であり、無防備な場所。信頼していない相手におしりを向けるという行為は本能的におこないません。

したがって、犬が飼い主におしりを向けて寝るのは信頼の証。「この人は、安心できる」とリラックスしている状態です。
拒否反応のように見えますが、実は、飼い主のことが大好きだという愛情表現なのです。

おしりを上げる

言葉が話せない犬は、相手に自分のメッセージを伝えるため、たくさんのボディランゲージをもちます。

上半身“ふせ”の状態で、おしりを高く上げるポーズは「プレイバウ(play bow)」と呼ばれ、遊んでいるときに、よく見られるしぐさ。「もっと遊ぼうよ!」という喜びの気持ちを表しています。
飼い主や人間のほか、犬に対しても見せることのある行動です。

獣医師に聞いた! 犬のおしりに関するQ&A

肛門腺絞りをまったくしなくてもいい犬もいる?
排便のときや興奮して力が入ったときなどに自然に分泌液を出すことができる犬の場合は、生涯にわたって一度も絞る必要がない子もいます。
ただ、体質や食生活の変化で肛門腺の分泌液の粘度が上がったり、高齢になって肛門括約筋が衰えたりすると、自力で排泄することが難しくなることがあります。
肛門腺絞りをしてもおしりが臭う。どうしたらいい?
肛門腺絞りをしてもおしりのにおいが強い場合は、肛門嚢炎を起こしている可能性があります。

また、下痢などの消化器系疾患、膀胱炎や尿石症といった泌尿器系の疾患、子宮蓄膿症などの生殖器系疾患によって、下半身が臭っている場合もあります。
肛門腺絞りをしても、肛門周囲を清潔にしてもにおいが改善しない場合は、前述のような病気の可能性もあるので動物病院へ受診なさってください。
肛門腺が腫れたり破裂したりしたときの治療はどうするの?
肛門嚢炎は細菌感染が原因のため、抗生物質の投薬が基本的な治療です。

肛門嚢内に溜まった膿や細菌を排出するために肛門腺を絞ったり、肛門嚢の出口から細いカテーテルを入れて洗浄をおこなったりしますが、痛みが強い場合はまず内服薬で炎症を抑え、処置をおこなわないこともあります。腫れが重度である場合は切開して膿を出すこともあります。すでに破裂してしまった場合は洗浄や消毒をおこない、破裂した部分が大きい場合は縫合が必要になることもあります。

肛門嚢炎をくり返してしまう場合は、肛門嚢そのものを摘出する手術を実施することもあります。

獣医師からのアドバイス

肛門腺が溜まってワンちゃんがおしりを気にしてしまう時は、おしりをこすったり舐めたりすることで肛門嚢炎を起こす可能性があります。肛門周囲は非常にデリケートで強い痛みを感じますので、ワンちゃんが辛い思いをしないように飼い主さまご自身で、あるいはトリミングサロンや動物病院で定期的に肛門腺絞りをおこなってあげましょう。

また、肛門腺絞りを定期的におこなっていてもおしりを気にするご様子がある場合は、下痢便などで肛門周囲が不衛生になって炎症を起こしている、瓜実条虫などの寄生虫がいる、ノミアレルギー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎で皮膚が痒いなどの可能性もあります。

ワンちゃんしきりに下半身を舐めていたり、下半身のにおいが気になる場合は、膀胱炎などの泌尿器疾患や子宮蓄膿症などの生殖器疾患が隠れていることもあります。

尻尾を追いかけてぐるぐる周る行動は、遊びの一環やストレスの発散でみられることがありますが、なかには常同行動といった精神的な疾患や、てんかんなどの脳神経疾患の可能性もあります。高齢犬では認知症や前庭疾患の症状のひとつとして旋回運動がみられます。
ワンちゃんがおしりを気にしていたり、においが気になったときは、かかりつけの先生にもご相談なさってくださいね。

まとめ

犬のおしり
犬がおしりを気にする行動のなかには、コミカルで、思わず笑ってしまうようなしぐさもあります。しかし、それが違和感や病気のサインであれば、犬にとっては笑えない状況ですよね。
定期的な肛門腺絞りをおこなうとともに、おしり周りを清潔に保つことで、おしりのトラブルの多くは予防できます。
ブラッシングの際など、愛犬のおしりに異常がないかチェックするのも忘れないようにしましょう。