犬の健康な便との見分け方

健康な便と下痢の見分け方
まず犬の健康な便と、そうではない便の見分け方についてご説明します。犬の便のタイプを大きくわけると、下記の5種類に分類されます。

乾燥した便

硬く、表面に粘り気がなく、風が吹けば転がるような便

理想的な便

円柱状で、拾い上げても大きく形の崩れない便

形のある軟便

形はあるものの、拾い上げようとすると床に残ってしまう便。便のはじめは良い便でも、最後のほうは軟便というケースもあり

形のない軟便

ソフトクリームのような硬さ。水様ではないが、掴もうとしてもほとんど形を保つことができない便

水様性の下痢

液体状の下痢便



動物病院で便の柔らかさについて伝える際に表現に困ったら、上記のような表現を使っていただくのをおすすめします。

犬の下痢の原因

うんちをする犬
犬が下痢になる原因はさまざまです。「下痢かも」と感じたら、まずは下痢の原因となるようなことはないか考えてみましょう。

食事

下痢になったとき、原因として真っ先に考えるとしたら、食べ物についてではないでしょうか。

食事の量が多すぎる

犬が喜ぶからといってドッグフードやおやつを必要以上に与えると、消化できず、下痢を引き起こす場合があります。

水の量が多すぎる

とくに子犬の場合、フードをふやかして与えると水を飲む量が多くなり、下痢になる可能性があります。一日に与える水の量は、ふやかしごはんに含まれるものも合わせてチェックしてあげましょう。

食中毒

犬も鮮度が落ちたものだったり、腐ったりしているものを食べれば下痢を引き起こします。ドライフードでも保存方法が悪かったり、古かったりすれば、食中毒の原因になります。

急にドッグフードを替えた

いきなりドッグフードを替えると、おなかの調子が乱れ、下痢を起こすことがあります。この場合、数日経てば下痢が治まることが多いです。

アレルギー

ドッグフードが合わず下痢を起こしている場合、新しいものに体が慣れていないという理由だけでなく、食物アレルギーが原因である可能性も考えられます
ドッグフードだけに限りませんが、特定の物を食べるたびに下痢や嘔吐などの症状がみられる場合は、その食べ物をやめない限り症状は治まりません。
食物アレルギーが疑われる場合には、動物病院でご相談することをおすすめします。

ストレス

人間と同じように、犬もストレスが溜まると胃腸の働きが悪くなる場合があります。ストレスの原因としては、長時間の留守番や工事の騒音、引っ越しなどが考えられます
ストレスになりうる要因を取り除いても改善が見られない場合は、動物病院を受診してみましょう。
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薬の影響

薬の影響で、下痢につながってしまうことがあります。薬を内服中にお腹の調子の変化がみられた場合には、まず通院中の動物病院に相談しましょう。

誤飲・誤食

家の中には、洗剤や殺虫剤、人間用の薬、サプリメント、チョコレート、ネギ類など、犬が食べてしまうと危険なものがたくさんあります。

与えないように注意していても、いたずらをして台所の三角コーナーやゴミ箱に置かれた生ごみを食べてしまう犬もいます。犬が食べてはいけないものは、絶対に手が届かない場所に置きましょうもし食べてしまったときはすぐに動物病院を受診してください。

また、おもちゃなどを誤飲してしまうケースも。新しいおもちゃを与える場合には、犬だけで使用させずに、家族の前で遊ばせてチェックすると安全です。
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ウイルス

犬パルボウイルス、犬コロナウイルス、犬ジステンパーウイルスなど、ウイルス感染の症状のひとつとして下痢が起こります
発熱、食欲不振、元気消失、血便、くしゃみ、咳、鼻水などの症状がみられることもあります。

細菌

クロストリジウムやカンピロバクター、サルモネラ、大腸菌、土壌菌などの細菌が原因となって下痢になるケースもあります。
また、腸内細菌バランスの崩れでも、下痢が起こることがあります。

寄生虫

おなかの中に寄生虫がいる場合も下痢になります。寄生虫にはさまざまな種類がいますが、下痢を引き起こす原因として多く見られるものをご紹介します。

回虫

胎盤や乳汁を通して母犬から感染するケースと、口から虫卵を摂取して発症するケースがあります。下痢のほかに、嘔吐、食欲不振、体重減少などの症状がみられることが多いですが、成犬では無症状であることも多いです。

鞭虫(べんちゅう)、鉤虫(こうちゅう)

鞭虫は虫卵を口から摂取することで感染します。鉤虫は経口感染だけでなく、母犬からの母乳や胎盤を通して感染したり、皮膚から感染したりすることがあります。
どちらの寄生虫も、腸の壁から吸血をしたり、腸を傷つけたりするため、下痢、血便、腹痛などの症状が現れます。

ジアルジア、コクシジウム、トリコモナス

ペットショップや繁殖場など、複数の犬が集まっている環境で感染しやすいです。
回虫や鞭虫、鉤虫と異なり、肉眼では見ることができません。成犬は感染しても無症状のケースが多いですが、子犬は下痢や血便などの症状がみられます。

その他の病気

小腸・大腸の病気のほか、その他の内臓疾患(腎臓や肝臓、膵臓の病気、生殖器の疾患など)や、ホルモンの関連する病気など、下痢の症状につながる病気はさまざまです。
そのため、飼い主が自宅で原因を特定することは難しいです。
とくに下痢が続く場合や血便や食欲不振が見られるなど、いつもと様子が違う場合は、獣医師に相談してください。

危険な犬の下痢の見分け方

トイレと犬
一言で下痢といっても、自宅での様子見でいいのか、すぐに受診したほうがいいのか、犬の年齢によって危険度は異なります。

子犬の下痢

免疫力の弱い子犬は急激に症状が悪化することがあります。
症状が軽かったり元気があったりしても、1日に何度も下痢をするようであれば、脱水症状を引き起こしやすいです。子犬が下痢をするときは、早めに動物病院を受診しましょう

子犬の下痢は早急な受診を

原田 友紀先生

全体的な元気さの低下や、嘔吐・食欲不振が見られる場合は成犬でも受診をおすすめしますが、特に成長途中である子犬さんは、危機的な状態につながってしまう恐れがあるため、早急な受診をおすすめします。

成犬の下痢

下記のような症状がみられる場合は、緊急性が高いと考えられます。早めに動物病院を受診することをおすすめします。

  • 水のような下痢を繰り返す(水様便)
  • 発熱や嘔吐を伴っている
  • 便に血が混ざっている(血便)
  • 便が黒い(黒色便)
  • 食欲不振
  • 元気がない
  • 体重が減っている
  • 体の震えなど腹痛のサインがある
  • 下痢が3日以上続いている

一過性の下痢であれば、1~2日で改善する場合がほとんど。もし3日以上続く場合は注意が必要です。

また、犬は自分から「おなかが痛い」と伝えることができません
体が震えている、背中を丸めて歩いている、前肢を伸ばして腰は上げるような「祈りのポーズ」を長時間みせる、おなかを触ると嫌がるなどのしぐさは、腹痛のサインである可能性も。意識して様子を見てください。

老犬の下痢

人間と同じで犬も、加齢によって胃や腸の働きが鈍くなる傾向にあります
消化吸収機能の低下に伴い、軟便、下痢、硬い便、などの症状がみられることがあります。

老犬が下痢を繰り返すと、脱水症状につながりやすいため注意が必要です。
元気であっても、下痢が2~3日続くようなら、動物病院に行くことをおすすめします。

また加齢により、ストレスを感じやすくなる犬もいます。ストレスが原因で下痢を引き起こすこともありますので、日常の変化に気を配り、愛犬がリラックスできるようにしてあげることが大切です。

普段からの便のチェックが大切

原田 友紀先生

もちろん成犬もですが、老犬で下痢が続く場合、腫瘍などを含めた内臓の疾患などが隠れていないかを、とくにしっかりと検査をしていくことが重要です。
まれに「うちの子はずっとゆるい便だけど、うちの子にとって普通だから大丈夫」と長い期間にわたって下痢が見逃されているケースもございます。
記事中にもございました「理想的な便」を参考に、健康のバロメーターである便を毎日チェックしていただけると安心です。

様子見でいい下痢とは?

  • いつも通り元気で食欲もある
  • 1~2日で治まり、すでに元気を取り戻している

上記の場合、「緊急性のない、一過性の下痢であった」という判断をすることがあります。

ただし、一度治まった場合でも、再度繰り返すようであれば、やはり受診をすべきです。

自宅でできる犬の下痢の対処法

トイレットペーパーと犬
家庭で様子を見るときは、いつもよりごはんの回数を1~2回増やし、その分、1回量を減らすようにするといいでしょう。
一度にたくさんの食事を与えるより、1回の量が少ないほうが胃腸への負担が少ないと言われているため、いつもの食事量を数回にわけて与えてあげるのがおすすめです。

ふやかしたフードが下痢に効果的、というのは間違い

原田 友紀先生

ふやかしたフードについて"消化しやすい、下痢のときによい"という声を耳にすることがありますが、それは事実ではありません。
むしろ、水分が多すぎることで下痢につながっているケースでは逆効果になってしまいます。
下痢なのに水分をとってくれないわんちゃんには有効ですが、水分過多の下痢が疑われる場合は与えないほうが安心です。

獣医師に聞いた! 自宅でできる愛犬の下痢の対処法についてのQ&A

人間用の整腸剤は使用可能?
獣医師の判断で、病院では人間用に販売されている整腸剤を使用することもあります。しかし使用に関しては、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。
下痢のときに避けるべき食べ物は?
下痢になったら、まずジャーキーなどの脂肪分が多く味の強いおやつはいったんストップすることをおすすめします。

また、「さつまいもは下痢に効きますか?」という質問が寄せられることがありますが、さつまいもは下痢に効果的な食材ではありません
むしろ、不溶性の食物繊維が多く、味の強いさつまいもは、膵炎による下痢などの場合では避けることもあります。原因がわかっていないのであれば、なおさらおすすめできません。

なお、白米やジャガイモを刺激性の低い消化のよい食物としておすすめすることもございます。
ただ、普段食べ慣れていないものを食べることで、体調に影響が出ることもございますので、その点には要注意です。

結局は、脂っこいものやトッピングを中止し、食べなれているごはんを、1回量を減らしてこまめにあげるのが1番だと思います。
下痢のとき、元気なら散歩に行ってもいい?
元気、食欲など問題なく、ほかの症状もないのであれば、絶対安静である必要はないかと思います
ただ、下痢が体調不良の最初のサインである可能性もあります。無理にはおこなわず、散歩に向かう場合は念のため、普段より短めで疲れない程度にしていただいたほうがよいでしょう

お外でないとおトイレができないわんちゃんの場合も、無理に絶対安静する必要はありません。そういった子の場合は、気分転換程度にお外に出るとよいでしょう。

【獣医師執筆】犬の下痢の症状で動物病院へ行く際の注意点

診察を受ける犬

便の様子や生活についてのメモ

犬の下痢を診断するにあたって、下記のような情報はとても重要です。

  • 急に起こったものなのか、ずっと続いているものなのか
  • 便の回数は増えていないか
  • 便はどんな色か
  • 食欲はあるか

これらの情報などを踏まえて、獣医師はその下痢が小腸で起こっているものか、大腸で起こっているものどうかなどを判断します。
そのため、軟便や下痢などいつもと変わった便を確認した場合には、記録することをおすすめします。カメラで撮影してもよいですね。

さらに、食事のや環境の変化があった場合にも、その情報を一緒にメモしていただき、受診の際にあわせて獣医師にお伝えしていただくとよいでしょう。

新鮮な便

便の検査にはいくつか種類があり、なるべく新鮮な便を検査するために病院で直接採取することもあれば、ある程度まとまった量の便が必要なこともあります。

ご自宅で新鮮な便を採取していただくと、検査・診断に役立つことがありますので、可能であれば準備することをおすすめします。
また、その際は、できれば保冷剤で冷やしながら持ってきていただくのが望ましいです。

いらないビニール袋などに入れて持参する形で基本的には問題ありませんが、ご不安な場合は動物病院に相談していただくといいでしょう。

犬の下痢の予防法

食事をする犬
普段の生活を見直すことで、予防できる下痢もあります。

食事の改善

下痢の原因がアレルギーの場合は、アレルゲンを含む食事を避ければ、症状が改善します
はじめて与えるドッグフードはあらかじめ成分表をチェックしたり、食後に異変がないか様子を見守ったりしましょう。

フードを変更する場合には、いきなりすべて変更するのではなく、1週間以上かけて、少しずつ今まで食べていたフードに混ぜる割合を増やしていく方法で変更するのがおすすめです。

ゆっくりと変更した場合でも、フードが体質に合わず、お腹の調子が悪くなることもあるので、変更後は便の様子をしっかりとチェックすることが重要です。

あわせて、フードが痛んでしまわないように、保管に気を付けることも重要です。
犬の食べる量を考慮して、メーカーが推奨している期間内に(開封後1カ月以内など)食べきれるサイズのフードを購入してあげるといいですね。

体質的におなかがゆるい子もいるので、その場合は乳酸菌などを含む犬用のサプリなどを使用することもあります。便がゆるいなと思ったら、獣医師に相談しましょう。

病気による下痢の場合は、主治医の指示に従いましょう

原田 友紀先生

病気による下痢と診断された場合には、主治医の指示の通り、それぞれの病気にあった生活を送りましょう。
たとえば、下痢の原因がアレルギーと診断された場合には、アレルギーに対応したフードのみを与え、通常、それ以外のものは少しのおやつであっても避けることがすすめられます。主治医の指示に従いましょう。

生活習慣の見直し

ストレスが原因で下痢になる場合は、なるべくストレスを取り除いた環境づくりを心がけてください。引っ越しや留守番など改善が難しいケースもありますが、なるべくコミュニケーションの時間を確保して、愛犬がストレスを発散できるような環境をつくってあげましょう

ほかには、環境が変わるといつも下痢をしてしまう犬の場合、事前に対策をしておくこともおすすめです。
たとえば「ペットホテルでお泊りをする前に、短時間の預かりにトライしておく」「長時間のドライブの前に、近所のドライブで慣らしておく」「お友達にお世話に来てもらうのであれば普段から会うなどしておく」などの準備をすることで、改善が期待できるケースもあります。

ワクチン接種や定期駆虫

ウイルスや寄生虫が原因の場合は、ワクチン接種や定期駆虫で症状を防ぐことができます。
特にウイルスは重篤な症状を引き起こすものもあるので、命を守るためにも定期的なワクチン接種をおこないましょう
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獣医師からのメッセージ

記事内にも「食べ慣れていないものをいきなり食べて下痢になってしまうケース」の紹介がありましたが、私もひとりのわんちゃんの家族として、「特別な日に特別な食べ物を与えたい」といった気持ちは大変よくわかります

旅行先で見つけたお土産や季節の品など、魅力的なものがありますよね。
しかしながら、特別なごはんが軟便、下痢や体調不良につながってしまい、
「お正月に食べ慣れていないものを食べて調子が悪くなったのに、いつもの病院が開いていなくて困った!」
「せっかくお誕生日にわんちゃん用ケーキを買って喜んで食べてくれたのに、体調を崩してしまった……」

そういった悲しい声を伺う機会も、動物病院では少なくありません。

特別な日を特別に迎えることはとっても楽しいことですが、食べ慣れていないものは少量にしてあげたり、普段から食べ慣れている食材にしてあげたりすると安心でしょう。
とくに持病をお持ちのわんちゃんでは、主治医の先生に食べてもよいかあらかじめ相談しておくと安心ですね。

まとめ

健康的な犬
「たかが下痢」と思う方もいるかもしれませんが、命に関わるような病気が潜んでいることもあります。
とくに子犬は急激に症状が悪化しやすいです。成犬でも下痢が続くときは動物病院へ行きましょう。また、体調が悪いときは犬も心が不安定になっているかもしれません。いつも以上に優しく見守ってあげられたらいいですね。