犬の耳掃除の必要性

犬の耳の構造
犬の耳は入り口から鼓膜までがL字型に曲がっているため、耳垢がたまりやすい構造になっています。そのため雑菌が繁殖しやすく、定期的に耳掃除をしないと外耳炎などの炎症や感染を引き起こす可能性があります。

耳掃除は、健康状態をチェックするためにも必要です。健康な場合は白色や薄茶色の耳垢で、サラッとした状態あるいは少し湿った程度。耳垢の量もそれほど多くはなく、耳の内部は薄いピンク色です。

一方、耳に何らかのトラブルがある場合はにおいが強くなり、黒色や黄色の耳垢やドロッとした耳垢が出てきます。耳の内部に赤みや腫れが見られる場合も。

耳にトラブルがあると、愛犬自身の行動にも異変が現われます。頻繁に耳をかいたり、頭をブルブル振ったりといった行動をすることがあります。

頻度

犬の耳掃除は、月に1回程度が目安。しかし、汚れが付いていない場合は、無理に掃除をしなくても大丈夫。

もともと犬の耳には自浄作用があり、過度な耳掃除は耳を傷つけることもあるので、やり過ぎには注意が必要です。

ただし、耳掃除の頻度は犬種や個体差も考慮します。定期的に耳掃除をしても汚れがひどい場合は、頻度が適切か獣医師に相談してみましょう。

耳の中の汚れは月に1回、外側の汚れは週に1回

高野 航平

液体を使った耳洗浄の場合は月1回程度ですが、イヤーローションなどは使わず、内側から出てくる汚れをきれいに拭くのは1週間に1度くらいは実施することをおすすめします。

また、体質的に耳が汚れやすい場合やべたつく汚れがある場合は、必要に応じて頻度をあげることが望ましいです。やりすぎは耳を傷つけたりする原因につながるので、いちど動物病院で相談して、おうちでのケアの頻度ややり方について指導していただくといいでしょう。

耳が汚れやすい犬種

チワワやポメラニアンなど立ち耳の犬種は、耳の通気性がよく蒸れにくい特徴があります。そのため、耳のトラブルの発生はそれほど多くありません。逆に、垂れ耳の犬種は通気性が悪いため蒸れやすく、外耳炎などを発症しやすい傾向にあります。

耳が汚れやすいといわれるのは、
  • トイプードル
  • ゴールデンレトリバー
  • ラブラドールレトリバー
  • ミニチュアダックスフンド
  • パグ
  • シーズー
  • キャバリア

などの犬種があげられます。

立ち耳でもフレンチブルドッグやヨークシャーテリアのように脂漏体質な犬種、ミニチュアシュナウザーのように耳毛の多い犬種も耳が汚れやすい傾向にあります。

また、上記のほかに柴犬も、アレルギーをはじめとする皮膚トラブルが多く、その影響で外耳炎や汚れが目立ち、耳掃除が必要になることが多い犬種です。

耳トラブルが起こりやすい時期

梅雨や夏など湿度の高い時期は耳が蒸れやすく、外耳炎などのトラブルが多くなります。耳が汚れやすいといわれる犬種はもちろん、それ以外の犬種であってもこの時期はとくに耳の状態に気を配りたいものです。

また、アレルギーが原因の場合、症状に季節性があらわれる(特定の季節に症状が出る)こともあります。

月に1度の耳掃除のとき以外にも、ときどき愛犬の耳をチェックするようにしましょう。

耳掃除のやり方3ステップ

耳掃除をする犬
犬の耳掃除において大切なのは、やり過ぎないことと適切な方法ですること。人間の耳の構造とは異なるので、耳かきなど人間用のケアグッズを用いるのは、絶対にやめましょう。

ここでは、耳掃除の方法を説明します。

用意するもの

  • イヤーローション(犬用の耳洗浄液)
  • コットン

ステップ1.耳の状態を確認

まずは、愛犬の耳の状態を確認します。炎症や傷、悪臭はないか、耳垢の色や状態に異常はないかチェックしましょう。

すでに耳の異常が見られる場合は耳掃除をせずに、すぐに動物病院に連れて行ってください。

ステップ2.イヤーローションを注入してもみもみ

イヤーローションを耳の中に垂らし、耳の付け根辺りを軽くマッサージします。イヤーローションで汚れがふやければ、ステップ2は完了です。

イヤーローションを垂らすときは、耳介をやさしく引っ張ることがコツ。外耳道が真っすぐになるので、液が入れやすくなります。

イヤーローションを嫌がるときは、ローションをしみこませたコットンを用意し、イヤーローションをゆっくり染み出させて、汚れをふやかすようにするとよいでしょう。

イヤーローションは、犬によっては体質に合わないこともあります。アレルギーのある犬や皮膚がデリケートな犬は、獣医師に相談してから購入しましょう。

イヤーローションはたっぷりと

高野 航平

イヤーローションの量は、耳に液が入っていることが目に見えるくらいが理想です。
数滴だと奥まで浸透しづらく、汚れがふやかしきれないためです。

耳に液が入っていることがわかるくらい多めにいれましょう。嫌がるときや途中で頭を振ってしまう場合には、ある程度入った段階で揉みこみはじめても大丈夫です。

ステップ3.拭き取る

液体が耳に入ると、犬はぶるぶると頭を振ります。そのときの遠心力で汚れが排出されるので、出てきた液体を優しく拭き取ったら耳掃除は完了です。

もし犬がぶるぶるしてくれないときは、耳に息を吹きかけてみましょう。そうすれば犬が頭を振ってくれるはずです。

吹きかける息が弱いと頭を振ってくれない可能性があるので、勢いよく強めに吹きかけてください。

耳の皮膚にはバリア機能があり、デリケートで傷つきやすい性質なのでゴシゴシこするように拭くのはNG。

また、耳の奥に水分が残った状態のままだと、炎症を起こす恐れがあるためしっかり乾かすのもポイント。とくに、常に耳の穴がふさがっている垂れ耳の犬は蒸れやすいので注意しましょう。

自宅での耳掃除が不安な場合は、動物病院で教えてもらうと安心です。

綿棒の使用は動物病院の指示を仰ぎましょう。

高野 航平

外耳を傷つける、耳垢を押し込んでしまう可能性があるため、自宅での耳掃除で、綿棒の使用はおすすめできません。

動物病院では使用することも多いですが、自宅でのお手入れの場合は、獣医師から指導がない限り、おうちで綿棒を使うことは避けた方がよいでしょう。

イヤーローションを使わない場合

イヤーローションを使わず、耳用のウエットティッシュなどで掃除をする方法もあります。この場合は、見える部分を軽く拭き取るだけでOK。立ち耳の犬種や、あまり耳が汚れない体質の犬にはこの方法でも十分でしょう。

ただし、アルコール入りのウエットティッシュでの代用は避けてください。皮膚に炎症を起こす可能性があるので、犬専用のウエットティッシュかイヤーローションをしみ込ませたコットンを使うようにしてくださいね。

イヤーローションがない場合

イヤーローションの代用は基本的にできません。

お湯やオイルなどで代用しようとすると耳の中に残留してしまったときに炎症のリスク要因となることが多いです。

イヤーローションがあることを確認してから耳掃除を実施し、途中でなくなってしまった場合には乾いたコットン、もしくはウェットティッシュなどでふき取るだけにしてください。

イヤーローションは切らさないように、耳掃除のときに残量を確認しましょう。

耳掃除を嫌がるときの対処法

怒る犬
耳掃除のステップは非常にシンプルですが、実際にやってみるとなかなかスムーズにはいかないものです。焦らず、犬が嫌がるようであれば、その日は耳掃除をするのはやめましょう。

また、耳掃除に慣れていないからと飼い主が緊張した状態で臨むと、その緊張が愛犬に伝わり警戒してしまうことも。飼い主がリラックスするのも、耳掃除を成功させる重要なポイントです。

ここでは、犬が耳掃除を嫌がるときの対処法を紹介します。
 

耳を触られることに慣れさせる

耳に触られることに慣れていないまま、耳掃除をするのは至難の業。普段のスキンシップで耳を触る機会を増やす、顔周りを触るときに一緒に耳を触ってみるなど、徐々に耳に触られることに慣れさせましょう。

夢中になれるおやつやおもちゃを与えている間に掃除する

犬が夢中になっておとなしくしてくれるようなガムなどのおやつや、お気に入りのおもちゃを与えている間に手早く耳掃除をおこないます。

あるいは、耳掃除のあとにごほうびとしておやつを与えてもいいでしょう。耳掃除をポジティブなイメージに変換させることで、嫌がらなくなる犬も多いです。

イヤークリーナーを温める

急に耳に冷たいイヤークリーナーを入れられることに驚き、嫌がっている可能性もあります。イヤークリーナーを体温と同じ程度に温めてから使用すると、嫌がらずに耳掃除をさせてくれることもあるので、試してみてください。

プロに任せる

あまりにも嫌がって危ないと感じる場合は、トリミングサロンや動物病院などのプロにお願いするのも一つの手。無理やりおこなうとケガにつながる恐れもあり、愛犬との信頼関係が崩れてしまう可能性もあります。無理はしないほうが賢明でしょう。

また、外耳炎など耳のトラブルを抱えている場合も触られるのを嫌がります。耳がいつもよりにおう耳垢の色がいつもと違う耳を頻繁にかいているといった症状が見られる場合は、早めに獣医師に相談しましょう。

コットンをうまく使うと成功することも

高野 航平

液体が入ることに驚いてしまう場合には、コットンにイヤーローションをしみこませたものを耳に差し込み、揉むときに液体を染み出させるようにすると成功することがあります。

犬の耳掃除の注意点

レッドカード
定期的なケアの一つである、犬の耳掃除。とくに垂れ耳の犬種や耳毛の多い犬は耳が蒸れやすいため、こまめに耳の状態をチェックする必要があります。

しかし、間違った方法で耳掃除をすると耳に炎症が起きてしまったり、犬が耳掃除に嫌がるようになったりすることがあります。

最後に、飼い主が自宅で安全に耳掃除をするための注意点を見ていきましょう。

人間用の耳かき、綿棒は使わない

耳の奥に耳垢が見えると、つい取りたくなってしまいます。しかし、人間用の耳かきを使って耳垢をかき出すのは、耳を傷つける可能性が高いので絶対にしないでください。

柔らかい綿棒ならいいのでは?と思う人がいるかもしれませんが、綿棒もNG。

耳の穴に綿棒を入れてしまうと自浄作用によって出てきた耳垢を奥に押し込んでしまったり、綿棒の先が取れて耳の中に残ってしまったりすることがあります。

また、耳かき同様、耳の中を傷つけてしまう可能性もあるのです。

耳の奥に見える耳垢は無理に取ろうとせず、掃除するときは必ずイヤーローションを使いましょう。

擦らない

耳はデリケートな部分であると同時に、皮膚のバリア機能も備えています。汚れを取ろうとゴシゴシ擦ってしまうと、皮膚を傷つけたりバリア機能が損なわれたりする危険性があります。擦らず、優しく拭き取るようにしましょう。

耳毛は抜かない

一般的に耳毛が多いとされるトイプードルやミニチュアシュナウザーといった犬種のほか、耳毛の量には個体差があります。

耳の毛が多いと通気性が悪く、蒸れる原因になるため、つい耳毛を抜いてあげたくなるかもしれません。しかし、耳毛はバリア機能の一部。水をはじく役割や、ほこりや汚れが入り込むのを防ぐ役割があるため、毛を抜くと耳に雑菌が入りやすくなることがあります。また、間違った抜き方をすれば、犬に痛みを感じさせることも。

耳毛が多い、耳毛が伸び過ぎているなど、気になる場合はトリミングサロンや動物病院などで相談し、必要に応じてカットしたり、抜いたりしてもらうとよいでしょう。

場所、服装にも注意!

高野 航平

耳垢が飛び散るので掃除しやすい場所や、汚れてもいい服装で実施することがおすすめです。

獣医師からのメッセージ

犬は耳の形や毛の多さから耳の病気にかかりやすいです。正しいお手入れを身に着け、継続することでしっかりと予防してあげましょう。

最初は難しく感じるかもしれません。嫌がるなか無理矢理抑え込んでおこなうのではなく、
①耳に触られること、②耳を拭かれること、③耳に液体を入れられること、と段階を踏みながら慣れさせてあげましょう。

液体を使わずに拭いてあげるだけでも掃除の効果は出てきます。
耳掃除に慣れるまでは毎日耳を触ったり、耳の中を拭いてあげたりしながら、焦らずに進めるとGood!

信頼関係が崩れないように耳掃除が嫌いにならないように頑張りましょう。

まとめ

人と犬の手
犬の耳掃除をしないと、外耳炎など耳のトラブルにつながる可能性があります。普段から愛犬とのスキンシップの時間などに耳の状態を観察する習慣をつけておくことをおすすめします。
紹介した耳掃除のやり方と注意点を参考に、耳掃除をしてあげましょう。自宅での耳掃除が難しい場合は、無理をせず動物病院にお手入れをお願いしてみてくださいね。