犬を褒めるしつけのメリット

飼い主に褒められている犬
褒めるしつけの最大のメリットは、犬に不必要なストレスを与えずに、飼い主さんの望む正しい行動を教えられる点でしょう。それだけではなく、褒められたことで犬が「嬉しい」や「楽しい」と感じたら、また褒められたくて同じ行動をとるようになります。つまり、褒めるしつけは、犬の自発的な行動にもつながっていきます。

このようなやりとりのなかで、飼い主さんと犬との信頼関係はつくられていきます。ただし、ただ褒めればよいというわけではありません。褒めるしつけを正しく理解したうえで、犬に「褒めていること」を伝えられるようになることが大切です。

犬を正しく褒めるために

トレーニング中の犬
褒めることは大切ですが、犬自身が「褒められている」「褒められたい」と感じていなければ効果的ではありません。犬に「褒めていること」をしっかり伝えるためのポイントをいくつか紹介します。

褒め言葉を決める

まず、褒められていることを意識的に教えていくために、あらかじめ褒め言葉を決めておきましょう。家族で統一すると、より愛犬は理解してくれるようになります。
「いい子」「上手」「グッド」など、短く簡潔な言葉が有効です。

褒め言葉を教える

褒め言葉を決めたら、その言葉を聞いて愛犬が「褒められている」と認識できるように教えていきます。教え方はシンプルで、愛犬のポジティブな感情と一緒に使うことで関連付けていきます。

たとえば、おやつをもらっているときは「おいしい」や「嬉しい」、遊んでいるときは「楽しい」、リラックスしているときは「落ち着く」などのポジティブな感情です。そのタイミングで褒め言葉を使っていくと、愛犬の頭の中で「よいワード」としてインプットされ、次第にその言葉を聞いただけで喜ぶようになっていきます。

犬が喜ぶご褒美を与える

ご褒美を与えることで、褒められていることを犬により実感させることができます。
好ましい行動をしたあとに、大好きなおやつをあげたり、たっぷり遊んであげたりするとよいでしょう。

タイミングよく褒める

愛犬をただ褒めればいいというわけではありません。褒めるタイミングも重要です。犬が正しいこと、好ましいことをしたとき、その場ですぐに褒めるのがポイントです。

愛犬に「さっきはマテがしっかりできて偉かったね」と、「マテ」をしたタイミングから少し時間がたったときに伝えても意味がありません。犬が正しい行動をしてから時間が空いてしまうと、犬はなぜ褒められているのか、まったくわからない状態になります。

ご褒美を入れておくことができる「トリーツポーチ」を使うのも一つの手です。おやつを携帯しておけるので、タイミングを逃さず褒めることができます。散歩などの外出時にも便利なグッズです。

必要なサポートをする

愛犬の今のレベル(理解度)に応じて、必要なサポートをしていくことも、褒めて育てるうえで大切なポイントです。

たとえば、家の中では簡単にできることも外では難しい、というようなことは多々あります。普段できるからといって、できない状況で無理にやり続けることは避けましょう。必要なサポートをおこない、褒めにつなげていくよう心がけてください。

褒め方を使い分けられるようになろう

鈴木 知之

実は褒め方にも種類があり、使うタイミングが微妙に違います。知っておきたいのは「行動の結果の褒め方」と「行動しようとした意思の褒め方」の2つです。

わかりやすく例を挙げて説明します。
【例1】
「おいで」のコマンドで、愛犬が目の前に来た。それを褒めた。
これは、「行動の結果の褒め方」です。できたことに対して褒めていて、一般的によく使われているのはこれですね。

【例2】
「おいで」のコマンドで、愛犬が飼い主さんのもとへ来ようと一歩踏み出した。その行動を褒めた。
これは、「行動しようとした意思の褒め方」です。つまり、行動が完了する前に使うことになります。行動を起こそうとしたその意思を、「正しいよ」とちゃんと褒めてあげることで、犬は自信をもって行動するようになっていくのです。

「結果の褒め方」だけでなく、「意思の褒め方」も上手に使えるようにしましょう。

犬を褒める際の注意点

犬用ビスケット
ここからは、犬を褒めるときについやってしまいがちなことや、誤って理解されがちなことを紹介します。「正しく褒めているはずなのにうまく伝わらない……」そんな方はぜひチェックしてみてください。

声の高さ

褒められていることが伝わるように、声のトーンを上げることは普段とのメリハリがつくため有効ですが、やりすぎには注意が必要です。ただ興奮させるだけになりかねません。しっぽを振っているからといって喜んでいるとは限らないのです。

喜びを通り越して興奮しているようなら、少し声のトーンを落とし、落ち着いた雰囲気で褒めてみましょう。

怒った表情で褒め言葉を使う

怒っているつもりはなくても、喜びの感情をあまり表に出さずに低い声で褒め言葉を使っていると、犬は褒められていると感じづらくなってしまいます。
せっかくの褒め言葉も、悪い印象を与えてしまう可能性があるので注意が必要です。

無理に手で引き寄せて褒める

褒めようという気持ちは重要ですが、無理やり引き寄せてしまうと犬に不快感を与えてしまいます。これを続けていると、飼い主さんの手を逃げるようになっていきます。
犬にとって飼い主さんの手は、いつも優しく撫でてくれるものであって、捕まえて強引に引き寄せるものではありません。

犬に覆いかぶさって褒める

褒めるときに愛犬がいつも後ずさりするようなら、覆いかぶさることで無意識のうちに圧迫感を与えてしまっている可能性があります。

そのような場合は、しゃがんで犬と同じ目線にしたり、真正面からではなく斜め前から声をかけたりと、できるだけ圧をかけないような工夫をするといいでしょう。繊細な子は圧迫感を感じやすい傾向にあります。

一貫性なく褒める

褒め方にあまりにも一貫性がないと、正しいことがうまく伝わりません。その日の気分や、家族間で対応の差がないか見直しましょう。

基準があいまいな場合は、褒めるべき行動を整理しておくのがおすすめです。基準がはっきりすれば、褒めるタイミングを逃さず、一貫性のあるしつけができるようになります。

すでにできることに毎回おやつをあげ続ける

すでに正しい行動が定着しているような場合は、毎回おやつをあげる必要はありません。褒め言葉は毎回伝えますが、おやつをあげる頻度はランダムにしましょう。そうすることで、「次はもらえるかも」という期待感が生まれ、飼い主さんへのポジティブな意識につながっていきます。
毎回おやつをあげ続けていると、おやつがあるときだけ飼い主さんの言っていることを聞くようになる可能性があるので注意が必要です。

また、犬にとってご褒美はおやつだけではありません。大好きなおもちゃでたっぷり遊んであげたり、撫でてあげたりすることもご褒美になります。

犬のご褒美におすすめのおやつ&おもちゃ

ロープ状のおもちゃで遊ぶ犬
おやつやおもちゃは、愛犬にとってわかりやすいご褒美です。そして何より、お互いの距離を縮めてくれる、しつけには欠かせないものです。いろいろな種類があるのでいくつか紹介します。シーンに合わせて使い分けられるようにしましょう。

おやつ

ジャーキー(ソフトタイプ・ハードタイプ)

ジャーキーは嗜好性高めなおやつの代表格。ソフトタイプは簡単に手でちぎれるので便利です。しつけのご褒美としてあげるときは細かくちぎってあげましょう。
ハードタイプは長く気をそらしたいようなときに効果的です。

ボーロ

粒タイプのおやつなので使い勝手がよく、ジャーキーと並び、おやつの定番です。しつけのご褒美としてあげるときは一粒ずつあげましょう。

クッキー

ボーロよりも大きいので、しつけのご褒美としてあげるときは小さくしてあげましょう。食欲がないようなときに、犬用ミルクでふやかして食べさせる与え方もおすすめです。

チーズ

チーズは嗜好性高めのおやつで大好きな犬が多いです。スティックタイプのものは手でちぎって小さくしてからあげましょう。
人間用のチーズは塩分が高いので、必ず犬用チーズを選んでください。

ガム

硬くて噛み切れないため、長時間楽しめます。構ってあげられないときのストレス解消や、苦手なケア中に意識をそらす目的で与えるなど、さまざまな場面で重宝します。
デンタルケア用のガムもあり、愛犬に合った種類・形を選ぶとよいでしょう。

ペースト

ペースト状なので食べやすいおやつです。舐めて食べることができるので、噛む力が弱くなったシニア犬にもおすすめです。
いつものごはんにトッピングとして使用することもでき、さまざまな使い方ができます。

おもちゃ

ロープ

愛犬との遊びの代表格ともいえる引っ張りっこ引っ張りっこで遊ぶならロープ系のおもちゃがおすすめです。
長めのロープであれば犬との距離ができるため、まだ犬に慣れないお子さんも比較的安心して遊べます。

ボール

犬には狩猟本能があるため、ボールを追いかけることも大好きな遊びです。投げたボールを持ってくることを教えれば、運動欲求をたっぷり満たしてくれる遊びになります。
投げる方向をランダムに変えるとより夢中になります。

音の出るおもちゃ

離れたところにいる犬の意識を向けたいときに重宝します。
基本的には、意識が向いたら鳴らすのをやめて褒めるようにしましょう。意識が向いたあともずっと鳴らし続けていると、徐々に音慣れして反応が薄くなってしまうことも……。
ロープやボールにも音鳴り機能がついたおもちゃがあるので、愛犬の大きさや性格に合わせて選ぶとよいでしょう。

一人遊び用おもちゃ

丈夫で壊れにくい素材でできているおもちゃで、噛みたい欲求を満たしてくれます。
中におやつが詰められるような知育おもちゃもあり、おやつの詰め方を工夫して難易度を調整してあげると夢中になってくれます。長時間構ってあげられないようなときにも役立ちます。

ドッグトレーナーに聞いた! 褒めるしつけに関するQ&A

ごはん前に勝手におすわりしている。落ち着いてはいるけれど……褒めてもいい?
判断になかなか迷いますよね。
結論から言うと、これは飼い主さんの褒める基準によって違うのかなと思います。

飛びついたり興奮したりすることなく、落ち着いてごはんを待てていることをよしとするのであれば、「偉いね」と褒め、ごはんをあげていいと思います。

号令をちゃんと聞けることをよしとするのであれば、号令で「おすわり」をさせ直したのちに、褒めてごはんをあげるのがいいと思います。
もし「おすわり」とは別のコマンド(たとえば「ふせ」や「おて」)ができるのであれば、「おすわり」→「ふせ」や「おすわり」→「おて」とさせたあとに褒めてあげるのもよいでしょう。

ただ、これも一連の動作として覚えてしまう子もいるので、日によって号令を変えるなど、工夫をしてみましょう。

まとめ

飼い主にお手をする犬
しつけには褒めることが大切ですが、正しい理解のもとで実践できているかも注意すべきポイントです。そもそも褒める行為自体にポジティブな意味が結びついている必要があり、犬自身が何で褒められているのかを理解できるようにすることが重要です。

「褒めること」は愛犬との最大のコミュニケーションです。小さなことでも「その行動は正しいよ」とフィードバックしていくことで、「飼い主さんにまた褒めてもらいたい」という感情が生まれます。ポジティブな会話を楽しみ、愛犬との絆を深めていきましょう。
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