飼い主が「叱る」を正しく理解する

悩んでいる人
間違った叱り方は、犬と飼い主の両方にとってストレスをためる原因になり、関係性が悪化してしまう可能性もあります。
まずは、飼い主が「叱ること」について正しく理解するところからはじめましょう。

怒ると叱るの違い

怒ると叱るは、似ているようで意味はまったく違う言葉です。
「怒る」というのは、イライラしたり腹が立ったりしたときに抱いた感情をぶつけることをいいます。

対して「叱る」は、その行動が間違っている・好ましくないということを伝え、最終的に正しい行動につながるようにすることをいいます。

「叱る」と「褒める」を使い分ける

愛犬に「何が正しくて、何が間違っているのか」を教えるためには、「叱る」と「褒める」を使い分けて、わかりやすく伝えることが大切です。

飼い主としてやってはいけないのが、愛犬を叱ることで「何が正しい行動か」を理解させようとする行為です。まずは褒めて「それは正しいよ」ということをしっかり伝えましょう。
そのうえで、必要なときに「それは違うよ」という意味で叱ることが大切です。

また、愛犬との信頼関係を崩さないためにも、「間違った行動」を正すために叱っても、最後は必ず褒めて終わることを心がけましょう。
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叱る言葉の意味を教えるには……

鈴木 知之

まずは、叱るときに使う言葉を決めておきましょう。「ノー」「ダメ」「いけない」など、できるだけ短くわかりやすい言葉を選んでください。言葉を決めたら、家族間で統一しておくとよいです。
これだけでは犬にとっては単なる言葉でしかありません。意味を教える必要があります。

叱る言葉の意味を教える際のポイントは「メリハリ」「インパクト」「タイミング」です。

①メリハリ
叱る言葉は普段の声のトーンよりも低めではっきりと一言で伝えます。
②インパクト
犬が「ハッ」とする瞬間的な刺激と叱る言葉を同時に使うと、意味が関連付きやすくなります。
※瞬間的な刺激の例・・・大きな音、リードの張りなど
③タイミング
やめさせるべき行動をしてしまってからではなく、犬がその行動をしようとしたときに叱る言葉を使います。

上記3点を意識しておこないます。何度も繰り返して教えると意味がぼけてしまうため、数回ではっきりと意味が伝わることを目指しましょう。
タイミングを逃しがちなので、愛犬の行動が予測できる状況下でおこなってください。

効果的な叱り方

叱られるポメラニアン

褒め言葉を先に教える

叱るだけでは正しいことを教えられません。まずは、正しい行動と褒め言葉とのつながりをしっかり教えて、「どうしたら褒められるか」を理解させます。

そのうえで、知っている号令を明らかに聞いていないようなとき、「それは違う」という意味で叱りましょう。

メリハリをつけて一言で

叱る言葉は「言う」のではなく、「伝える」ことが大事です。普段より低めの声で、メリハリをつけて一言で伝えましょう。
「ノーだよ、ノー、ノー」と普段と同じテンションで叱り言葉を多用しがちですが、これではなかなか伝わりません。

間を空けずに叱る

一番効果的なタイミングは、愛犬が間違った行動をしようとしとしているそのときですが、愛犬の行動が予測できないと、タイミングを計って瞬間的に叱るということは難しいです。
その場合は、遅くとも間違った行動をした直後には叱るようにしましょう。

犬は行動の直後でなければ、何をダメだと言われているのか理解できません。
そのため、たとえば留守番中のいたずらを帰宅後に叱っても、残念ながら犬はなぜ叱られているのか、理解ができないのです。

最後は褒める

しつけの手段として叱っても、「叱ること」で正しい行動は教えられません。必ず最後は「それが正しいよ」と褒めて終えるようにしましょう。
「褒める」と「叱る」をセットにしたほうが、犬にとっても「何が間違っていて、何が正しいか」を理解しやすくなります。

叱らなくてもよい環境をつくる

効果的に叱るためには、無駄に叱ることは避けなければなりません。無駄に叱ることはストレスを与えるだけで、関係性を悪化させる原因にもなります。
本当に叱る必要があるのか、冷静に判断できるようにしましょう。

以下のように、頭の中で3つにわけて整理しておくと、判断を迷わずに済みます。

①「知らなくてできない」
この場合は、叱るのではなく、褒めながら丁寧に教えてあげましょう。

②「知っているができない」
普段はできていても、環境が変わればできないこともあります。できるようにサポートしてあげることが大切です。

③「知っていてやらない」
知っていることを意図的に無視している状況のため、叱ったほうがよいケースです。最後は必ず褒めて終えましょう。

なんでもかんでも叱るのではなく、必要なときにだけ叱るのが効果的な叱りです。

効果的な叱り方で「褒めること」の価値を高めよう

鈴木 知之

「褒めると叱るはセットで使う」と述べましたが、「褒める」と「叱る」は対極の言葉です。

たとえば、仕事でミスをしてしまったとしましょう。上司から叱られたときはへこみますが、そのあとうまくいったことを「よくがんばったね」とちゃんと褒めてもらえると、普段褒められたときよりうれしいはずです。「次もがんばろう!」と思うのではないでしょうか。

効果的な叱りは褒めの価値をより高めてくれるのです。

間違った叱り方

大きな×印を作る手
ここからは、犬を叱るときについやってしまいがちなことをご紹介していきます。該当するところがないか、チェックしてみてください。

体罰を与える

犬を叩く、蹴るなど体罰は絶対にしてはいけません。
手で顔などを叩くと、愛犬を撫でようと思って差し出した手さえも怖がって避けるようになります。体罰はどんな場合でも許されるものではないと考えましょう。

名前で叱る

名前を呼んで叱ることを繰り返すと、名前に対して嫌な印象がついてしまいます。
そうなると名前を呼んでも無視したり、逃げたりするようになっていきます。

過剰に反応する

トイレの失敗をしたときや、何かものを壊されたときなど、思わず大きなリアクションをとってしまうことはないでしょうか。
大きなリアクションは、飼い主さんが喜んでくれていると犬は勘違いしてしまうことがあります。なるべく落ち着いて、過剰なリアクションはとらないよう気を付けましょう。

繰り返し叱る

繰り返し叱り続けても犬には伝わりません。叱るときは一度ではっきり伝えるようにし、必ず最後に正しい行動を褒めて終わるようにしましょう。

一貫性なく叱る

叱る行為に一貫性がないとうまく伝わりません。その日の気分や、家族間で対応の差がないか見直しましょう。
基準があいまいな場合は、叱るべき行動を整理しておくとよいです。基準がはっきりすれば、タイミングを逃さず、効果的に叱ることができます。

叱られて反省している? していない?

首をかしげる犬
そもそも犬は反省をするのでしょうか。人間のように「ごめんなさい」と言葉で表すことはできないので、正直なところその真意はわかっていません。ただし、叱られているということは、雰囲気で感じ取って理解しているといえます。
叱られているときに犬がよく見せるサインと、そのときの犬の気持ちを一部紹介します。

叱られているときにみせるサインと気持ち

  • あくびをする(相手に落ち着いてほしい、自分も落ち着きたい)
  • 目をそらす(相手に対して敵意がない、ストレスから逃れたい)
  • ゆっくり近づいてくる(相手に落ち着いてほしい、相手に敵意がない)
  • ブルブルと体を振る(緊張している、落ち着きたい)
  • 後ろ足で体を掻く(葛藤している、思い通りにいかない)
  • しきりに鼻や口周りをなめる(ストレスを感じている、緊張をしている)
  • 仰向けになっておなかを見せる(相手に対して敵意はない、降参)
などがあります。

もし叱った際にこのようなサインが見られたら、すでに十分に伝わっていますので、それ以上叱る必要はありません。愛犬の出すサインから、気持ちを読みとるようにしましょう。
※サインが見られるまで叱る必要はありません。

無駄に叱らないようにするために

整頓された部屋
無駄に叱らないようにするためには、愛犬の状態に問題はないか把握したり、いたずらや失敗の原因となる要素を取り除いたりすることが何より重要です。

体調の確認

健康状態は何より優先させるべきことです。愛犬の体調に問題はないか、常に把握しておきましょう。
体調が悪ければ、いつもと違う行動をとったり、失敗してしまったりすることはよく起こります。このような状況で叱れば、さらに負荷をかけることになり、健康状態をより悪化させることになります。

飼い主である人間も、体調が悪いとイライラすることがあります。そんなとき愛犬が悪さをしたり失敗をしたりしたら、強く叱りたくなってしまうかもしれません。
そんなときは、深呼吸をする、休息をとるなど、気分転換をして落ち着きましょう。場合によっては、ご家族など別の人に愛犬のお世話を手伝ってもらうのも一つの方法です。

環境や運動量の見直し

いたずらされたくないものを犬が届く場所に置いていないか、トイレの場所は適切か、運動量は少なくないかなどを考え、叱らないで済むように環境を整えることも大切です。
片付けや散歩時間の確保など、できることからはじめてみましょう。

ドッグトレーナーに聞いた! 犬の正しい叱り方に関するQ&A

人が大好きで飛びついてしまう。叱っても伝わらない。どうしたらいい?
まず大事なのは、どう叱るかではありません。「どうしたら褒められるのか」を愛犬が知っているかどうかです。
「飛びついたらダメ」ではなく、「人の前ではおすわりをするといいことがある」ということを丁寧に教えましょう。

あくまでも一例ですが、以下のような教え方ができます。

①まず犬にリードをつけておきます。そして、対面した状態でリードを足で踏んでおきます。

このときリードを踏んでおく位置が重要です。犬が飛ぼうとして前足がちょっと地面から浮いたところでリードが張るようにしましょう。
それより踏む位置が短すぎると「ただ単に飛べないだけ」ですし、長すぎると「飛べてしまう」ので意味がありません。

②犬が飛ぼうとしている間は、無視に徹します(正しいことをまだ知らないので、叱らず無視で構いません)。

③そのうち、犬が座るタイミングがきます。そのタイミングを逃さず褒めるようにしましょう。
何度かそれを繰り返すと、「自分から飛ばなくても、座れば構ってもらえる」ことを犬自身が学んでいきますよ。

どう叱るかという、叱る前提で考えるのではなく、褒めて育てる考えをベースに持って接していきましょう。

まとめ

顔を寄せ合う人と犬
犬と一緒に暮らしていると、思い通りにいかないことも多くあります。そんなとき「ダメ」ばかりが増えてしまうと、お互いにストレスをためてしまうだけでなく、関係を悪化させることにつながってしまいます。
叱ることで愛犬に正しいことを伝えるのは困難です。「どうしたら褒められるか」をきちんと教える必要があります。褒めて育てるしつけをベースに、効果的に叱ることができるようにしましょう。