犬の白内障とは?

犬 首 かしげる
白内障とは「水晶体」と呼ばれる目のレンズが白く濁る病気です。
白く濁った部分が広がると、視覚に影響が出てきます。また、水晶体は一度白くなると元には戻りません。

白内障は大きく「先天性」と、「続発性(または後天性)」の2つに分けられます。
先天性は生まれつき、もしくは生後間もなく発症するもの、続発性(後天性)は加齢や外傷などが原因で発症するものです。

先天性

先天性とは生まれつき水晶体が濁っていることをいいます。
親犬や兄弟犬の病歴を調べると明らかになるケースも多いです。

6歳未満で発症する白内障は「若齢性白内障」と呼ばれることもあり、犬の白内障ではよく見られるといわれています。

続発性(後天性)

加齢、外傷、糖尿病など、別の原因が発症を引き起こすものを「続発性白内障」といいます。

  • 加齢性
    老化現象の一つで、6~8歳くらいからあらわれることが多いです。
  • 外傷性
    引っ掻いてしまったりぶつかってしまったりしたことで、水晶体に傷がつき発症します。
  • 糖尿病性
    糖尿病の合併症として発症するケースで、糖尿病性白内障といいます。
    犬は糖尿病にかかると、ほぼ100%の確率で白内障を発症するといわれています。

白内障になりやすい犬種

遺伝的に白内障になりやすいとされている犬種がいます。

たとえば、下記のような犬種です。
  • トイプードル
  • シーズー
  • 柴犬
  • アメリカンコッカースパニエル
  • ヨークシャーテリア
  • チワワ
  • キャバリア
  • ボストンテリア
  • イタリアングレーハウンド
  • ビションフリーゼ
  • ミニチュアピンシャー
  • ダックスフンド
  • パピヨン
  • シュナウザー

犬の白内障の症状

犬 目 診察
白内障で白く濁った水晶体と視力は、元には戻りません。
しかし、治療をしたり進行を遅らせたりするのは可能です。
白内障の症状を知り、早期発見につとめましょう。

飼い主が気付きやすい白内障のサイン

下記のような症状で、愛犬の目の異常に気付く飼い主さんが多いようです。

  • 目が白く濁る
  • 散歩を嫌がる
  • 壁伝いに歩く
  • つまづく
  • 物にぶつかる
  • 暗いところを歩きたがらない



白内障を4つのステージにわけ、さらに詳しくみていきます。

初発白内障

白内障の初期の段階です。
視野への影響もなく、白内障と気付くのは難しい時期です。
獣医師による眼の検査で判明することがあります。

<症状>
  • 白い濁りが水晶体のふちにみられる

未熟白内障

見た目にわかるくらいに白い濁りが広がってきます。
視野への影響も出始め、歩くのを嫌がったり、確かめるように壁伝いに歩くようになったりします。

<症状>
  • 白い濁りが徐々に広がる
  • 視覚への影響が出始める
  • 散歩を嫌がる
  • 暗いところを歩くのを嫌がる
  • つまずく

成熟白内障

未熟白内障からさらに進行した状態で、目が全体的に真っ白になります。
視覚への影響も大きく、このころには、目はほとんど見えなくなります。

<症状>
  • 水晶体全体が白く濁る
  • 視覚がほとんどなくなる
  • ものにぶつかる

過熟白内障

白く濁った水晶体が溶けて流れ出し、そこから炎症や合併症を起こす可能性のある危険な状態です。

<症状>
  • 水晶体の濁りはさらに進行し、水晶体の融解が起きる
  • 溶けた水晶体の残存物が眼球のなかに見える
  • 失明、または失明に近い状態になる



犬は視力を失っても、人間ほどは生活に差し支えがなく、慣れるのも早いといわれています。
飼い主さんが気付きやすいとしてあげた症状も、ステージ2の未熟白内障でようやくあらわれるケースが多いでしょう。

また、目が白っぽくなってきたと感じても、白内障とは限らないので注意が必要です。
白内障以外にも水晶体の老化が原因で水晶体の中心が白くなる「核硬化症」という病気があり、シニア犬によくみられます。

白内障の濁りなのか核硬化症なのか、見た目での判断は困難です。
気になる症状があれば獣医師に相談しましょう。

白内障を放置すると……?

白内障を放置して、過熟白内障まで進行してしまうと、ブドウ膜炎や緑内障を併発する恐れがあります。

ブドウ膜炎

水晶体から流れ出たタンパク質が、目の中でブドウ膜炎などの目の炎症を引き起こすことがあります。

ブドウ膜炎になると、目が充血したり、目をしょぼしょぼさせたりといった症状がみられ、痛みや違和感が伴います。
とくに白内障が急速に悪化した場合に多くみられます。

緑内障

白内障やブドウ膜炎から併発する可能性の高い病気です。
目のなかの圧力(眼圧)が上がり、失明につながります。違和感や激しい痛みを伴うケースもあります。

加齢性白内障の進行は比較的ゆっくりといわれていますが、若年性の場合は急速に進行します。
ほかの合併症予防のためにも、いつもと違う様子が見られたら、かかりつけ医に相談しましょう。

白内障の放置は危険

高野 航平

白内障を放置して治療が遅れると、視力を失うだけでなく、ブドウ膜炎や緑内障を併発し、わんちゃんは目に激しい痛みや不快感を覚えます。

また、水晶体が縮んだり溶けたりすると、感染症などさまざまな合併症を引き起こします。最終的には目がつぶれてしまう状態になってしまい、眼球摘出の可能性が高くなります。

犬の白内障の治療方法

犬 目薬
犬の白内障の治療方法は、内科的治療と外科的治療の2つがあります。

内科的治療

点眼薬や内服薬で治療をすることを内科的治療といいます。
なかでも点眼薬は、初期の白内障によく使用されます。

しかし内科的治療で白内障を完治させることはできません。
治すのではなく、症状の進行を遅らせる目的での使用となります。

外科的治療

白内障の完治を目的とした治療に、外科手術があり、これを外科的治療といいます。
視力の回復を目的に、白く濁った水晶体を取り出し、代わりに人工レンズを挿入する手術です。

難易度の高い手術のため、白内障手術の経験が豊富な獣医師、もしくは専門医がいて、設備が整った病院で受けるのが安心です

術後に合併症を引き起こす可能性があるため、飼い主さんの管理体制や犬の年齢や持病なども考慮した、慎重な話し合いを求められるでしょう。

仮に外科的治療を施しても、進行具合などから視力回復は難しいだろうと診断されることもあります。その場合、手術はおこないません。

手術費用は片目で25万円前後が目安です。これに、入院費や麻酔代などが別途加算されます。

かかりつけ医と家族でよく話し合いましょう

高野 航平

白内障の外科手術は、合併症リスクが高いこと、もし合併症を発症した場合、さらに術後のケアが大変になることをよくご理解いただく必要があります。

お薬でコントロールできることもありますが、合併症を発症すると手術が必要になる場合もあり、最悪失明してしまうことも。

ただ、手術を受けることで視力が回復し、わんちゃんの生活の質が改善されることも期待できます。リスクについてきちんと理解したうえで、ご担当される先生とご家族でよくご相談いただき、納得できる結論を出すことが大切です。

手術が受けられない場合や外科手術を希望されない場合には、点眼薬やサプリメント・ごはんを使用し症状の進行を遅らせます。

犬の白内障の予防法

犬 目 検査
傷やケガが引き起こす外傷性白内障は、予防が可能です。

爪で引っ掻いてしまったり、植え込みに顔を突っ込んだりして、目を傷つけてしまうケースが多いです。
常に爪を短く、やすりをかけて表面を滑らかしておく、植え込みのない散歩コースに変更するなどの対策をしましょう。

外傷性の白内障以外については、効果的な予防法はありません。

しかし、紫外線による長時間の刺激や目に外傷を受けるような接触トラブルを避けること、抗酸化作用のあるサプリメントやごはんをあげることが有効といわれています。

栄養バランスに配慮した健康的な食事を与えるよう心がけるとともに、早期発見につとめましょう。とくに若年性白内障においては早期発見が重要なポイントとなります。

白内障好発犬種といわれるトイプードルやシーズー、チワワなどは定期的に眼科健診を受けることをおすすめします。

獣医師に聞いた! 犬の白内障についてのQ&A

白内障で目が見えなくなったらどんなことに気を付けたらいいの?
白内障になると、視力が落ちてくるため、お家の中でつまづいたり、ぶつかったりしないように環境を整えましょう。階段や段差のある所には柵を置く、ぶつかりやすい部分にはクッション素材でカバーするなど、ケガをしないように工夫してあげるとよいですね。

また、お散歩時には、側溝や踏み外しやすい場所は避けるようにしましょう。

わんちゃんは、もともと生活の多くを視覚ではなく、嗅覚や聴覚に頼って暮らしているので、お家のでケアしてあげながら生活することで、白内障になってしまっていても快適な生活を送ることができます。
目薬を嫌がる。うまくさすコツはある?
わんちゃんが目薬を嫌がる場合、お座りをさせた状態で、背中側からそっと顎の下に手を入れて少し上を向かせます。目薬を持つ手はぶれないように頭に添えると、上手に目薬をさすことができます。
白内障の手術の成功率はどれくらい? 失敗することもある?
わんちゃんの目は非常にデリケートです。手術ができるかどうかや目の状態を把握する検査はもちろん、手術も特殊な装置を必要とするため、専門の病院でおこなわれることが多いです。

また、手術自体が成功しても、術後に合併症を引き起こし、残念ながら失明してしまったということもあります。

獣医師からのメッセージ

若齢性白内障を除き、わんちゃんの白内障はゆっくりと時間をかけて進行することが多いです。日頃からわんちゃんの様子をよく見て、「目が少し白っぽいかも?」「最近ものによくぶつかる」「ボールが取れなくなった」といった変化があれば、かかりつけの先生に早めに相談してみましょう。

また、好発犬種とされているわんちゃんは、1歳ごろから定期的に目の状態をチェックしてもらうことで早期発見につながります。

もし発症してしまった場合、完治には外科手術が必要になりますが、目薬やサプリメントで進行を遅らせることが可能です。


生活環境を工夫してケガを予防し、快適な生活を送れるようにしてあげましょう。

まとめ

犬 笑顔
効果的な予防法がない白内障ですが、愛犬の小さな変化や症状を見逃さないよう、スキンシップやコミュニケーションの時間を充実させましょう。定期的な健康診断もおすすめです。
犬は私たち人間ほど視覚に頼った生活をしていないと言われています。もし愛犬が白内障を発症してしまっても、今までとさほど変わらない生活を送れるケースも多いでしょう。愛犬の目が見えなくなってしまうのはショックかもしれませんが、あまり悲観的にならず、穏やかに生活できるようにサポートしてあげましょう。