愛犬が水を飲まない理由

犬と食器
犬がなかなか水を飲まない場合、次のような理由が考えられます。また、理由はどれかひとつというわけではなく、さまざまな理由が重なっている場合もあるようです。

食事で水分が足りている

セミドライフードやウェットフードなど比較的水分量が多いフードを食べている場合、水を飲まないことがあります。ドライフードの水分量が10パーセント以下なのに対して、ウェットフードには水分が75%程度含まれており、水分と栄養素を一緒に摂ることができます。

また、手作り食もドライフードに比べて水分含有量が多いので、飲む水の量は減るでしょう。

体調不良

歯周病や口内炎で口の中に痛みがある、首や手足に痛みがあり、水を飲む姿勢をとることが難しいなどの場合、水を飲めていない可能性があります。

また、病気などの体調不良により、水を飲む気力や体力がないことも考えられます。

気温が低い

夏は開口呼吸をして舌から水分を気化させることで体温を調節しているので、水分の喪失が多く喉が乾きます。

逆に寒い季節になると飲む水の量は減っていきます。もし、水を飲まないのが秋や冬への季節の変わり目だった場合、気温が理由なのかもしれません。
そのほかに、冷たい水を嫌い、水を飲まないこともあります。

水や容器が汚れている

犬の嗅覚は人間よりも優れているため、飼い主さんが気付かない水の汚れや臭いなどを気にして、飲んでくれない可能性があります。とくに夏場は気温が高く水の劣化が早いので、暑いのに飲んでくれないという場合は、水の劣化が原因かもしれません。

水飲み場や容器が気に入らない

水を置いてある場所が1カ所だけで飲みたいときに飲めない、犬がふだん行かないような場所や出入口などの人の往来が激しい場所に水が置いてある、トイレが近すぎるなど不衛生さやにおいが気になるなどの理由から、水を飲まない場合があります。

また、水飲み用の食器の素材や大きさ、深さなどが気に入らなくて、飲まないといったケースもあります。

環境の変化・ストレス

慣れない環境で安心できない、飼い主との触れ合いが少ない、運動不足、来客、騒音などの原因で犬がストレスを感じていると、飲水量が減ることがあります。

加齢

老犬になってくると、のどの渇きに鈍感になっていきます。また、代謝が落ちて水を飲みたいと思わなくなり、飲水量や飲む回数が減っていく場合も。

足腰が弱って水を飲みに行くのが辛い、水を飲む姿勢を保つことが難しい、寝ている時間が増えてしまうことなども飲水量低下の要因の一つです。

愛犬に必要な飲水量を知ろう!

電卓 ペン
犬の飲水量が少ないと心配は尽きませんが、本当に必要な水の量を知っていますか? 

健康的な犬に必要な一日の飲水量の目安は、体重1kgあたり50~60mlだといわれています。

例えば、体重5kgの場合、一日の飲水量の目安は250~300mlです。

ただし、運動量が多い犬であればもっとたくさんの水を飲みますし、ウェットフードなど水分量の多い食事を取っているのであれば飲む水の量は少なくなります。あくまで目安の量だと覚えておきましょう。

飲水量の量り方

では、飲水量はどのように量ればよいのでしょうか。いくつか方法を紹介しましょう。

水の減り具合をチェック

もっとも簡単な方法は、ペットボトルを使った方法です。
事前にペットボトルに100mlごとに目盛り線を引いておくと確認がしやすくなります。

  1. 500mlのペットボトル満杯に入れた水を、愛犬の飲み水用の器に注ぐ。
  2. 愛犬が水を飲み、器の水がなくなったり、少なくなったりしたら、同じペットボトルから継ぎ足す。
  3. 24時間後、愛犬が飲み残した水を器からペットボトルに戻す。残ったペットボトルの量を図ると、犬の1日の飲水量がわかる。

※愛犬の飲水の器が空の状態にならないように、気を付けましょう。

このようにすると一日に飲んだ量が分かります。

一週間ほど調査を続けると、愛犬の一日の飲水量の平均値が見えてきます。普段の飲水量がわかっていれば、愛犬の体調に異常があったとき、いち早く気付くことができます。

※気温の高さや運動量によっても飲水量は変わりますので、そういった条件面もメモしておくことをおすすめします。

おしっこをチェック

おしっこの回数が少ない、散歩中もおしっこをしない、おしっこの量が少ない、おしっこの色が濃いなどの場合、水分がしっかり摂れていない可能性があります。
排尿回数は子犬で1日7~10回、成犬で3~5回、老犬で5~7回くらい、尿量は体重1kgあたり20~45mlを目安にチェックしましょう。

また、おしっこをするポーズをしているのに出ていないなど排尿できていない場合は尿路閉塞などの危険があります。
尿路閉塞のほかに、腎不全による乏尿、無尿の可能性もあるため、尿が出ていないことに気が付いたら、すぐに動物病院を受診しましょう。

うんちの硬さをチェック

水分量が足りていない場合、うんちが硬くなることや、便秘になってしまうことがあります。毎日のうんちの硬さをチェックし、硬さが気になるときは腸内環境を整えるだけでなく、一日の水分量が足りていない可能性も考えましょう。

目盛り付きの容器を使うのも便利

高野 航平

計量カップで水の量をはかって器に入れて、24時間後の残った水の量を確認し、入れた量から差し引くことでも、飲水量をはかることができます。
水は1g=1mlですので、器の重さも含めた重さから24時間後の重さを差し引く方法でも、簡単に飲水量を知ることができます。

最近は「~ml」と線がもともと引いてあるデザインのお皿や、計量機能つきのお皿もありますので、そういった商品を使ってみるとより管理がしやすいでしょう。

水分不足が招く危険

犬 不調
人間と同じように水分が足りていないと犬も脱水症状を起こします。背中の皮膚をつまんで離したとき、体の皮膚がいつもの状態に戻るのに2~3秒以上かかる、やたらと水を飲む、口が乾いているような気がするときは、脱水症状になっている可能性があります。

水を飲むことや食事をすることで回復するような軽度の脱水症状であれば様子見でもいいですが、動けずにぐったりしているような過度の脱水症状がみられるときは、すぐに病院へ連れて行きましょう。

また、水分不足になると脱水症状以外にも次のような病気や症状を引き起こす可能性もあります。なかには命に危険が及ぶ病気もあるので、注意が必要です。
  • 尿路結石症
  • 膀胱炎
  • 急性腎臓病
  • 尿毒症

水分不足が招くリスク

高野 航平

水分不足は血液や尿を濃縮させるため、血液がドロドロになって血栓症を引き起こす危険性があります。また、口が乾燥してうまく飲み込めないと、誤嚥性肺炎を引き起こすことも考えられます。

皮膚も乾燥するので、痒みなどの皮膚トラブルも増えることがあります。

犬の体における水の役割

犬の体は約7割が水分でできており、下記のように健康維持に必要な役割を果たしています。

  • 血液の循環、排尿により体温を調節する
  • 酸素や電解質、ホルモンを体にいきわたらせる
  • 老廃物を尿として体外に排出する
  • 唾液などの体液や血液を作る
  • 消化・吸収した栄養素を体中に届ける

飲み過ぎてもダメ?

飲水量や尿量は脳や腎臓が調節しており、体内からの大量の水分が排出されると、脳は腎臓において尿の量を減らすホルモンを放出したり、のどの渇きを刺激して飲水量を増やそうとしたりします。

しかし、脳または腎臓の機能障害、糖尿病やクッシング症候群といった内分泌疾患、肝臓病、子宮蓄膿症、ある種の腫瘍などの病気により、水を多飲してしまうケースがあります。一日の飲水量が、体重1kgあたり100ml以上(体重が5kgの犬の場合、500ml以上)が、多飲と判断する目安の量になります。
しかし、利尿剤やステロイド剤などを服薬中の場合は、飲水量が増える薬剤もあるため、かかりつけ医に確認しましょう。

「水を飲みすぎかも?」と気になっている場合も、先ほど紹介した飲水量を調べる方法でチェックしてみてください。

受診の目安

高野 航平

軽い水分不足であれば、水分補給をすれば体調も戻りますので、ワンちゃんがいつでも清潔な水を十分飲めるようにしてあげてください。

<水分減少率と症状>
  • 2%の脱水
    のどの渇きを覚え、水を求めて落ち着きなく動き回ったり、しきりに唇を舐めたりするような行動がみられます。
  • 5%の脱水
    活動性が低下し、吐き気や嘔吐、ふらつき、尿量の減少などがみられます。
  • 10%の脱水
    血圧低下により起立が困難になり、意識の混濁、けいれん、腎機能不全を起こし尿が出なくなります。
  • 20%以上脱水
    多臓器不全を起こし死にいたります。

  • 脱水の傾向が見られた場合は、早めに水分補給をおこないましょう。
水を飲んでも改善しない、あるいはぐったりして水を飲もうとしない場合は早急に受診してください。

また、繰り返しの嘔吐・下痢がみられるときや熱中症のときも脱水症状を起こしやすいため注意が必要です。とくに熱中症は暑さに慣れていない春先や、冬のコタツの中でも起こりますので注意が必要です。

反対にワンちゃんが水を飲み過ぎる場合、腎臓病や肝臓病、糖尿病の可能性があります。ほかにもクッシング症候群などのホルモン疾患、高カルシウム血症を伴う腫瘍、メスなら子宮蓄膿症、オスなら前立腺膿瘍などの可能性もありますので、飲水量や尿量が増えたときは必ずかかりつけの先生に相談しましょう。

愛犬に水を飲んでもらうための工夫

水飲み器
愛犬が水を飲まないとき、ちょっとした工夫で飲むようになる場合も少なくありません。

水飲み場の場所を変える、増やす

犬が水を飲みたいと思ったときにすぐに飲めるよう、水の置き場所を変えたり、複数の場所に水を置いたりしてみましょう。室内で犬がよくいる定位置ハウス(ケージ)の中飼い主さんがよくいる場所などがおすすめです。

とくに飼い主さんのいる場所の近くに置くと、水の減り具合や水の汚れをこまめにチェックしやすくなります。また、ベランダや廊下、玄関などいつもと違う場所に水と置くことで飲みはじめる犬もいます。

水飲み器を変えてみる

新鮮な水が出てくる水飲み器に変えると、水の汚れや臭いが気になる繊細な犬も飲みやすくなります。

ほかにもプラスチック製の器はにおいが移りやすく、傷がつきやすいため、雑菌がわきやすいと言われています。清潔に利用できるステンレス製などに変えてみると、よく水を飲むようになるかもしれません。

水の温度を変える

常温水だけでなく、いろいろな水の温度を試してみるのもひとつの手です。冬ならぬるま湯、夏なら氷を混ぜて冷たくした水など、季節に合わせた温度にすると飲んでくれる犬もいます。

フレーバー(味)をつける

犬はうまみ成分を感じることができます。犬用のミルクや鶏肉や野菜などのゆで汁を入れることでおいしく飲んでくれる子も。ゆで汁を犬にあげるときは、塩などの調味料は入れないようにしましょう。

ウェットフードをあげる

もっとも簡単な方法が、ウェットフードをあげることです。市販のウェットフードを買い足さなくてもドライフードをぬるま湯でふやかしてあげる方法もあります。

ただし、ふやかすと味がぼんやりしてしまうため食べなくなってしまうこともあるので、食事量が減ってしまう場合は別の方法を試しましょう。

犬に飲ませていいもの、ダメなもの

バツ印 手
犬が水分をとりやすいように、さまさまざまな種類の飲みものを試してみたくなりますが、犬に飲ませてもよいものと、与えるべきではないものがあります。

あげてもよいもの

水道水

水道水によいイメージを持っていない方もいるかもしれませんが、日本の水道水は厳しい基準を設けられ、常に清潔が保たれています。そして大半が犬に飲ませるのに向いている軟水です。カルキ臭が気になるなどの場合は煮沸してから飲ませるといいでしょう。

ミネラルウォーター(軟水)

明確な証明はされていませんが、カルシウム・マグネシウムなどミネラル成分が豊富な硬水は、尿路結石につながるという説があるため、尿路結石の既往歴がある犬や結石ができやすい体質の犬は避けるようにしましょう。あげる場合は軟水を選ぶようにすると安心です。

麦茶

ノンカフェインなので、犬にあげても大丈夫です。

ただし、ミネラルが含まれているため、結石症にかかったことがある犬には与えないようにしましょう。

スポーツドリンク

人間用は塩分・糖分が多いので犬に与えるべきではありません。必ず「犬用」と書かれたイオンバランス飲料、経口ゼリーなどを選びましょう。

あげてはダメなもの

カフェインが入っている飲みもの

コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどカフェインが含まれている飲みものは、カフェイン中毒になる危険があるので、犬にあげてはいけません。

カフェイン中毒になると、異常な興奮やよだれを垂らす、呼吸が荒くなるなどの初期症状が現れます。
症状が進むと下痢や嘔吐、尿失禁、悪化するとけいれん、不整脈などの症状があらわれ、最悪の場合死にいたることも。
カフェインの入った飲みものは与えないことはもちろんですが、誤飲にも気を付けましょう。

アルコール分が入っている飲みもの

犬は人間のようにアルコールを分解できません。そのため、アルコールの成分が体に吸収されやすく、体に長くとどまってしまいます。

急速に吸収されたアルコールは犬の脳に影響を与え、量によっては死んでしまう可能性もあり、とても危険です。もし愛犬がアルコールを口にしてしまったら、すぐに病院へ行きましょう。

牛乳

牛乳は犬に飲ませてもよいイメージがあるかもしれませんが、「乳糖不耐性」と言って、牛乳に含まれる乳糖をうまく消化できず、下痢になってしまう犬がいます。

乳糖は温めても分解されないので、注意しましょう。犬に牛乳をあげたいときは、「犬用牛乳」や「犬用ミルク」と表記された商品を選ぶことをおすすめします。

獣医師に聞いた! 犬が水を飲まないことについてのQ&A

多頭飼いをしていて、一頭一頭の飲水量がわからない。なにかいい方法はある?
多頭飼育をしている場合は正確にそれぞれの飲水量を把握する事は困難です。

水を飲みに行く姿は見かけるか、尿の量や色はどうか、元気や食欲はあるか、口の中は乾燥していないか、皮膚に弾力があるか、毛ツヤがあるか、体重が減っていないかなどを確認しましょう。
パッケージに書かれている一日の目安量を超えなければ、犬用ミルクを毎日あげても大丈夫?
健康な子であれば、ミルクやスープを規定量あげることは問題ありません。
犬用ミルクは対象年齢によってカロリーや栄養素のバランスが異なるため、ワンちゃんの年齢に合ったものを選んでください。

ミルクはタンパク質や脂肪、カルシウムなどのミネラルが豊富に含まれているので、肥満傾向の子や結石症や腎臓病の既往がある子にはおすすめできません。

スープは使用される材料によって栄養素が異なるため、お家の子に適したものであるか必ずかかりつけの先生にも相談しましょう。
ミルクやスープが好きだからといってたくさん飲み過ぎて必要なフードを食べられないなんてことにならないよう、あくまでも補助的な栄養補給、水分補給として活用してください。
ウェットフードをあげていれば、水をまったく飲まなくても問題ない?
ウェットフードのみを与えている場合は、フードだけで水分が賄える可能性があります。

たとえば体重5kgの成犬で1日の必要カロリーが420kcalだった場合、100gあたり95kcalのウェットフードでは443gが必要です。
ウェットフードの75%が水分とすると、443g食べると332mlの水分を摂取できることになります。5kgのワンちゃんに必要な水分は250~300mlと冒頭でお伝えしておりますので、十分な水分量となることがわかります。

ただし、暑い日や運動した後など水分を多く必要とするときや、病気によってはもっと水分を摂らないといけないこともあります。

ドライフードとウェットフードを混ぜて与える場合は食事からの水分量だけでは不十分なので、水を飲ませる必要があるでしょう。

獣医師からのメッセージ

ワンちゃんの体は子犬で70~80%、成犬で50~70%の水分を含んでいます。水分は生命活動の維持に重要で、水分が不足すると全身に必要な栄養素などを届けたり、老廃物を排泄したりすることができなくなります。

脱水が進むにつれて血液が濃縮され、尿量が減るため、血栓症や腎臓病・尿毒症のリスクが高まり、けいれんなどの神経症状もみられるようになります。最終的には多臓器不全を起こし、命の危険があります。とくに子犬の場合は、繰り返しの嘔吐・下痢に注意しましょう。

高齢のワンちゃんで足腰が弱ってくると水を飲みに行かなくなったり、寝てばかりでのどの乾きに鈍感になったりします。高齢な子こそ、しっかり水分を摂るように意識してあげてください。

利尿剤やステロイドなどの尿量が増えるようなお薬を服用している場合や腎臓病や糖尿病などの病気によって尿量が増えてしまうワンちゃんは、脱水症状を起こさないように気を付けてあげてください。

なかなか水分を積極的にとらない子に対しては、記事のなかのアドバイスを試してみてくださいね。高齢のワンちゃんはシリンジやスポイトなどで介助が必要なこともありますので、かかりつけの先生にもご相談ください。

まとめ

犬 噴水
少なすぎず、多すぎず、必要な量の水分を取ることは犬の健康維持に欠かせません。愛犬の飲水量が減っているかもしれないと感じたら、まずは愛犬の一日の飲水量を計測してみましょう。
実際に飲水量が減っている場合は、この記事で紹介したような対処法を試してみてください。
それでも状況が変わらないような場合には、獣医師に相談してみると安心です。