犬の涙やけとは

ポメラニアン 涙やけ
なぜ犬は涙やけを起こしてしまうのでしょうか。まずは犬の目の構造や涙の役割から説明していきましょう。

目の構造と涙の役割

犬の目の表面は涙で覆われています。涙には、外からの刺激やホコリから目を守ったり、酸素や栄養を眼に供給したりするなどの役割があり、犬が健康に生きていくために必要なものです。

犬の目と鼻は、つながっていることは知っていますか? 涙は、涙点(るいてん)というまぶたにある穴から体内に入り、涙小管(るいしょうかん)、涙嚢(るいのう)、鼻涙管(びるいかん)の順番で伝わっていき、最後に鼻に流れる仕組みになっています。

しかし、涙の量が過剰に増えた場合や、目から鼻へ通り抜ける涙の流れが何らかの異常により詰まってしまう場合は、目から涙が溢れ続けてしまいます。これを「流涙症」といいます。

涙やけとは 

涙やけは、「流涙症」のせいで目の周りが常に涙で濡れた状態になり、目の周りの毛が涙の酸化により茶色く変色してしまうことを指します。ただし、すべての犬が涙やけになるわけではなく、毛の長さやケアの仕方、体質、犬種などにより異なります。

犬の涙やけの原因

目 犬 診察
涙やけになってしまう仕組みは紹介しましたが、その流れを引き起こしてしまい涙やけになってしまう原因にはどのようなことがあるのでしょうか。

鼻涙管のトラブル

生まれつき鼻涙管にトラブルがある場合、涙を排出する能力が十分でなく、涙やけができることがあります。

一般的なのは、「鼻涙管閉塞」で、涙やけの原因で一番多いといわれています。先天的な異常や炎症により、鼻涙管が詰まることにより起こる病気です。ほかにも、先天的に涙点が閉じてしまっていたり、狭くなっていたりするケースもあります。

眼瞼内反症(がんけいないはんしょう)

下まぶたが眼球側に反ってしまう病気のこと。生まれつきという場合が多く、まぶたが内側に入ることで、眼球にまつげが触れてしまい、涙の量が増え涙やけにつながります。

マイボーム腺機能不全

犬の涙の表面は、脂分で覆われており、その脂を分泌しているのが、「マイボーム腺」です。

加齢やホルモンバランス、細菌感染などによってマイボーム腺の機能が低下し、脂分が出にくくなると、眼球表面上に涙を保持できずに流れ落ちてしまうため、涙やけの原因になります。
また、涙が流れてしまうので目が乾燥しやすくなります。

まつ毛の生え方

本来外側を向いているまつ毛が眼球に向かって生え、眼を刺激すると、涙の量が増え涙やけになることがあります。この状態を逆さまつ毛と言いますが、眼瞼内反証でも同様の状態が起こります。

目の傷や炎症

角膜に傷がある「角膜潰瘍」や、「緑内障」「ブドウ膜炎」などにより目に炎症が起きている場合は、涙の量が増えることがあります。痛そうな様子を見せているときは、こちらの眼科疾患も疑いましょう。

アレルギー

食物、花粉、ハウスダストなどへのアレルギー反応で目にかゆみや炎症が出ることがあります。
目を痒がる・こするなどのの刺激が加わることで炎症が悪化したり、結膜炎、角膜潰瘍などで涙が増えると涙やけにつながります。

鼻炎や鼻の病気

細菌やウィルス感染症、アレルギー疾患により鼻水やくしゃみのような症状が出ているときは、鼻涙管にも炎症が見られることが多く、目の水分が鼻へうまく流れずに涙の量が増えることがあります。

病院に行くべき症状

涙やけのほかにも下記のような症状があるときは、自己判断せず、動物病院を受診しましょう。別の病気のサインである可能性もありますし、失明を招く病気の恐れもあります。

  • 黄緑色の目ヤニが出る
  • 充血している
  • 痛そうに瞬きしている
  • 目を細めて開けにくそうにする

涙やけを起こしやすい犬種

フレンチブルドッグ 狆 チワワ 犬
先ほど説明したように涙やけの原因はさまざまですが、体のつくりや特徴から涙やけを起こしやすい犬種がいます。

短頭種

鼻が短く、目が大きな短頭種は、顔の構造上生まれつき鼻涙管が曲がっていたり、狭くなっていたりする場合も少なくありません。さらに目のトラブルも多いので注意してあげましょう。

  • シーズー
  • パグ
  • フレンチブルドッグ
  • ペキニーズ

小型犬

体が小さな犬は生まれつき鼻涙管が狭い場合が多く、詰まりやすいといわれています。

  • トイプードル
  • マルチーズ
  • チワワ
  • ポメラニアン

アレルギーになりやすい犬種

アレルギー疾患がある犬の場合、目がアレルゲンに反応してかゆくなり、結膜炎を生じ、涙の量が増えることがあります。アレルゲンは、花粉やダニ、ホコリ、食物、ノミなど多岐にわたるため、一度病院で検査してもらうとよいでしょう。

  • 柴犬
  • アメリカンコッカースパニエル
  • ウェストハイランドホワイトテリア

老犬

犬は年齢が上がると涙の量をコントロールすることが苦手になるため、涙が出続けてしまうことも。また、免疫力が下がり、目や目の周りの病気やトラブルも起きやすくなります。

犬の涙やけの対処法

目元 拭く 犬
先ほど「病院に行くべき症状」として紹介したように、目や目の周りにトラブルが見られたときはそのままにせずに、動物病院へ相談に行きましょう。

「涙やけは目の周りの毛色が変わるだけ」「重大な病気ではないから大丈夫」などの飼い主さん個人による判断は危険です。

いつも目の下が涙で濡れている、いつもより目や目の周りを気にしているといった様子が見られる場合には、かかりつけ医に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。

涙やけは原因に応じた治療を

高野 航平

涙焼けはさまざまな原因で起こりますが、症状の改善や軽減、予防をすることができます。

症状が見られたら、まずは通院を検討していただき、鼻涙管やまつ毛、マイボーム腺などに原因にがある場合は、それぞれに応じた治療をおこないます。
食物が原因の場合、アレルゲンが除去されたフードやおやつへの変更により、症状が改善することも多いです。食物以外のアレルギー疾患の場合、点眼薬や経口薬の処方をおこなうことで、症状の軽減や改善が期待されます。

症状が気になる場合や、お迎えしたワンちゃんが涙やけを起こしやすい犬種の場合は、かかりつけの先生に相談してみましょう。

犬の涙やけの予防法

トリミング 犬
これまで紹介してきたように犬種や先天性の病気など、生まれついての要因も多い涙やけ。そのため、予防をしたからといって絶対に避けることができると限りませんが、下記のような予防法は試してみる価値が十分にあります。

とくに涙やけを起こしやすい犬種や特徴をもった犬の飼い主さんは、覚えておいてくださいね。

目のまわりの毛をカットする

目の周りの毛が伸びて目の表面を刺激している場合は、目の周りの毛をこまめにカットすることで涙やけを防げる可能性があります。

また、常に濡れている涙やけ部分の毛をカットすることは、清潔を保つことにもつながるので、おすすめです。

こまめに拭き取る

目の周りが常に涙で濡れていることが、変色の大きな原因です。こまめにコットンや専用のケアグッズを使用して拭き取るようにしてください。

また、毛がかたまっている場合は、濡らしたコットンなどでふやかしてきれいにしてから、ノミとりコームのような目の細かいクシで梳かすと取れやすくなります。かたまっている部分を引っ張ったり強くこすったりすると、皮膚炎の原因になったり、目を傷つけたりする恐れがあるので気を付けてくださいね。

フードやサプリメントでケアする

涙やけ用対策のフードやサプリメントもさまざまな種類が販売されています。

アレルゲンを避ける、無添加、グルテンフリーを選ぶなど愛犬の体に合うフードにすることで、涙やけが改善したという例もあるようです。

サプリメントで根本的な改善は難しい場合が多いですが、涙やけの悪化防止に繋がるものもありますので、取り入れやすいものを試してみるのもいいでしょう。

獣医師Q&A

涙やけの治療はどんなことをするの?
原因により治療方法は異なりますが、鼻涙管閉塞の場合には、カテーテルを設置し鼻涙管へ生理食塩水などを通して、鼻涙管に詰まっている老廃物を除去する処置をおこないます。この処置は全身麻酔下の実施がほとんどですが、そのほかとしては洗浄液や、抗生物質や抗炎症剤の点眼薬や、経口薬の処方をおこなう方法があります。

マイボーム腺機能不全の場合は、上眼瞼や下眼瞼を指でマッサージし、温めて内容物を排出しやすくする処置や点眼薬の処方をおこなう場合があります。

逆さまつ毛や眼瞼内反症の場合は、眼球に当たるまつ毛を定期的に抜去する処置や、全身麻酔下でまつ毛を毛根から除去する処置、皮膚の一部を切除するなどの外科処置をします。

アレルギーで食物が原因の場合、アレルゲンを除去した食事への変更をおこないます。食物以外のアレルギー疾患の場合、症状を抑制する経口薬を用いたり、ステロイド・抗生物質・抗炎症剤などの点眼薬を処方します。
また「角膜潰瘍」「緑内障」「ブドウ膜炎」といった眼科疾患の場合は、症状に応じた点眼薬や内服薬を処方したり、外科処置をしたりする場合もあります。
目元の毛の色が変わるだけなら、放置しても大丈夫?
涙やけが悪化すると、被毛の色が変色し匂いも発生しますので、放置せずに早期の治療をおすすめします。
ワンちゃんの見た目が気になるだけでなく、皮膚炎を引き起こすこともありますので、涙やけに気づいたら早めに処置をしましょう。
子犬の涙やけは成犬になればなくなる?
成長過程で犬の顔の大きさが変わるため、月齢と共に鼻涙管周囲の状態が変化し、涙やけの症状が軽減する場合はあります。ただし、犬種や成長状況にもよりますので、改善しないこともあります。
一度涙やけになってしまったらもう戻らないの?
毛色を完全に元の状態に戻すのは難しいですが、予防・治療により改善できる場合もあります。

上記予防法の実施により改善したこともありますし、動物病院で原因に応じた治療後や、さまざまな方法をを組み合わせることで改善した例もあります。

獣医師からのメッセージ

犬の涙やけは、通院を迷う症状のひとつだと思います。

涙やけを引き起こす流涙症は、先天的な異常や顔の構造上の問題など、予防が難しいケースがほとんどです。しかし、こまめに拭くなどの予防法により、毛の変色を防ぐことはできます。

とくに涙やけが起こりやすい犬種や、毛が白色や薄い色の場合には毎日のケアを心がけ、優しく拭いてあげることが大切です。

また、アレルギーになりやすい犬腫は、子犬のころから食事の内容に気を付けることが、予防につながります。

涙やけの状態が気になる場合、写真に記録を残すのもよい方法で、予防や治療前後の症状を比較し、今後の参考にすることができます。通院時には、ぜひ主治医の先生にも記録の内容をお伝えしてみてください。
涙やけは原因が多岐にわたり、不安も多いと思いますが、重大な眼科疾患が隠れていることもありますので、受診すべきか迷う際には早期の通院をおすすめいたします。

まとめ

チワワ 3頭
飼い主さんの愛情だけでは予防が難しい涙やけですが、正しい治療やケアを続けることで悪化を防いだり、ほかの病気にも気づくきっかけになったりすることもあるでしょう。ぜひ、日々目の周りをチェックして、涙で濡れていることが多いようであれば動物病院へ相談に行き、早期発見・早期治療を心がけてくださいね。