犬に寄生するノミとは

犬 外 かゆみ
ノミは鳥や動物の体の表面に寄生し、宿主を吸血して生きる昆虫です。
オス・メス関係なく、成虫になったすべてのノミが吸血します。

日本には80種類以上のノミが生息しているといわれており、そのなかで犬に寄生するのは「イヌノミ」と「ネコノミ」というノミです。

ノミは犬にも猫にも、ときには人間にも寄生します。
体長はおおよそ1~3mm。動きが素早く見失うことはあるかもしれませんが、肉眼で確認できる大きさです。
後ろ足2本が大きく発達し、高いジャンプ力をもっています。

ノミの幼虫は成虫の糞、人や犬の食べこぼし、フケなどを食べて育ち、成虫になると吸血します。
気温13度前後から活動をはじめ、湿気を好み、とくに7~9月ごろに活動が盛んになります。

しかし、条件がそろわなければ、1年近くさなぎのままでいることもあると言われています。

ノミとダニの違い

犬 首をかしげる
犬に寄生し、吸血する生き物は、ノミのほかにも「ダニ」がいます。
駆除薬は「ノミ・ダニ」とひとくくりになっていることが多いため、なんとなく一緒に考えがちです。
しかし、ノミとダニは、似て非なる生き物です。
ノミとダニの違いを解説します。

まず、ノミは6本脚の昆虫です。
ダニは8本脚で、クモなどと同じ節足動物です。
ノミは目に見える大きさですが、ダニは、マダニ以外は非常に小さく、肉眼では確認できません。

また、すべての種類のノミは、成虫になると吸血します。
それに対してダニは、すべての種類が吸血するわけではありません。たとえば、マダニは吸血することで有名ですが、ツメダニのように吸血しないダニもいます。

活動期は共通している点が多く、ノミは7~9月ころ、マダニは4~11月ころに活動が盛んになります。
どちらも暖かく湿気の多い季節を好み、屋内のように冬でも寒くならない場所であれば、一年中活動できます。

愛犬が体をかゆがる様子を見せ、皮膚上や被毛の中に小さな虫らしきものを発見した際、それが素早く動いていればノミだと考えていいでしょう。

マダニの場合は、吸血前でも3~8mm、吸血後には1~2cmと肉眼ではっきりと見える大きさですが、動きはほとんどありません。
マダニの場合、愛犬の皮膚に口を差し込み、吸血しているところを発見するというケースもあります。マダニを見つけた際は、自分で取ろうとせずに病院へ行ってください。

もしノミを見つけた際は、投薬や場合によっては薬浴が必要になりますので、すぐに動物病院にご相談しましょう。
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犬のノミの感染経路

犬 草原
ノミのさらなる生態と感染経路について解説します。

ノミは卵から幼虫、さなぎ、成虫へと完全変態する昆虫です。
卵は1~10日で孵化し、幼虫になります。幼虫は脱皮を繰り返しながらおおよそ8~18日でさなぎになります。
さなぎの期間は非常に幅広く、1週間から半年で、条件がそろうと羽化して成虫になります。

動物に寄生して吸血するのは成虫だけです。卵からさなぎまでの期間は、屋外であれば地面や草むら、室内では部屋の隅の汚れたところ、家具の下や隙間などのじめっとしたところやクッション、ソファなどに生息しているといわれています。

散歩中、または、飼い主さんが服やカバンに付けて家に持ち帰ったノミが、愛犬に付着してしまうというケースもあります。

また、成虫の場合、なにかの拍子に宿主から落ちたり離れたりしても、しばらくは生存が可能です。
つまり、感染した犬とすれ違ったり、ドッグランやドッグサロンなどの施設を利用したりするだけでも、感染のリスクがあるといえます。

外だけでなく、屋内施設や自宅でも注意が必要です。

ノミは予防が大切

高野 航平

きちんと予防をすることが大切です。とくに、旅行やドッグランに遊びに行く、アウトドアに行く、ほかのどうぶつさんと触れ合う機会がある、といった際は、意識して予防をおこないましょう。暖かいところなど、地域によっては通年で感染リスクがあるところも存在しますので、1年を通して予防ができると理想的ですね。

犬がノミに寄生されたときの症状

犬 かゆみ
もし愛犬がノミに寄生された場合、できるだけ早く発見することが大切です。

  • 体や顔をかゆがる
  • 壁や地面などに体を擦りつける
  • 皮膚にブツブツや赤み、ジュクジュクした炎症がある
  • 体の表面に黒いツブツブ(ノミの糞)がある

などの症状がみられますので、ブラッシングなどの際に皮膚の状態をあらためて確認しましょう。

ノミの糞の見分け方

ノミに寄生されると、動き回る成虫だけでなく、ノミの卵や糞も皮膚上にみることができます。
もし、愛犬の体に黒いツブツブがついていたら、濡らしたティッシュかキッチンペーパーの上に置いてみましょう。
ノミの糞であった場合は、黒いツブツブから血液の赤い色が滲んできます。

症状はみられないものの、お手入れなどの際に動くノミらしきものを見たら、すぐに確認をしましょう。

ノミは、条件がよければ、最短2週間ほどで成虫が産んだ卵が孵化し、卵を産めるようになるまで成長します。あっという間に繁殖してしまうので、見かけたのが1匹であっても十分に注意をしましょう。

ノミが引き起こす病気

診察を受ける犬
ノミの成虫は、針のような口器を皮膚に刺して吸血します。
刺された箇所は強いかゆみが生じ、また、ノミの唾液にアレルギー反応を起こすこともあります。
ここでは、ノミに寄生されたときの症状や発症する可能性のある病気を解説します。

ノミ自体が引き起こす病気

皮膚炎

ノミの唾液、ノミアレルギーによる皮膚炎です。
一度発症すると完治が難しく、再発を繰り返し、長い期間皮膚炎に悩まされるケースが少なくありません。
もともとアトピー性皮膚炎の犬がノミに吸血されると、症状が悪化するともいわれています。吸血されると強いかゆみや赤みが生じ、掻き傷、脱毛などの症状が表れます。

かゆみが原因でストレスがたまり、攻撃的になったり、元気がなくなったりという行動の変化がみられることもあります。

貧血

ノミの寄生が重度になると小型犬など体重の軽い犬は貧血になる可能性があります。
体調に変化がないか十分に注意してください。

ノミが媒介する病気

ノミが媒介する病気には、人も動物も感染する「人畜共通感染症」というものが存在します。
ノミが媒介する人畜共通感染症で代表的な病気をご紹介します。

サナダムシ(瓜実条虫:うりざねじょうちゅう)

サナダムシとはノミが媒介する内部寄生虫です。
口で掻く、体を引っ掻いた足を舐めるなどをして、サナダムシに寄生されているノミを食べてしまうと感染します。
感染しても症状は軽く、無症状のことも多いと言われています。

サナダムシは、犬の小腸に寄生し、成虫は長いものでは50cmくらいになるといわれており、腸内で紐状の体(片節)が切り離されると、便と一緒に排出されます。

排出された場合、片節は必ず便の表面についているため、比較的気付きやすい寄生虫といえます。
便と一緒に持っていき、かかりつけ医に相談してください。

発疹熱

発疹熱は猫やネズミ、そのほかのげっ歯類などの病原体保有動物を吸血したノミによって、感染する病気です。

平均10日間ほどの潜伏期期間を経て、発症します。症状としては、悪寒、頭痛、発熱などで、発疹はまばらです。

死亡率は高くありませんが、予防のためのワクチンはないため、ノミやダニに噛まれないようにすることが大切です。

猫ひっかき病(バルトネラ症)

猫引っ掻き病は名前からも分かるように、病原菌を持った犬や猫に引っ掻かれることで感染する病気です。
病原菌であるバルトネラ菌を持ったノミに、犬や猫が噛まれることで、感染。感染した犬猫に引っ掻かれたり、噛まれたりすることで人間に感染します。

犬や猫はバルトネラ菌に感染しても無症状ですが、人が感染した場合は、傷口の化膿、発熱、リンパ節の腫れなどが起こります。

潜伏期間は数日から2週間程度で、軽症の場合は自然治癒することもありますが、リンパ節の腫れがひどい場合は抗菌薬の投与をおこなう場合も。

感染した犬猫に対して、なにか処置をすることはありません。

ノミの予防、犬猫の爪を短く切っておくなどの予防が有効です。

ペスト

ペスト菌を保有するネズミなどのげっ歯類からノミを媒介して、人に感染します。
1類感染症に指定されているため、疑い例の時点で即時に保健所への報告が義務付けられている病気です。

ノミを媒介して感染するペストは腺ペストと呼ばれています。飛沫感染によって感染した場合は肺ペストと呼ばれます。

感染すると、リンパ節炎、敗血症などを起こし、全身の出血斑、壊死などが見られます。重症の場合は高熱、意識障害などが起こることもある病気です。

潜伏期間は1~7日程度で、抗菌薬を投与して治療がおこなわれます。

有効なワクチンはないため、ノミ予防、患者への接触を避けるなどが有効です。

日本では1927年移行、感染が報告されていないため、国内での感染の可能性は低いと思われます。
アフリカ、アジア、アメリカ大陸の山岳地帯などを中心に発生しているため、海外旅行に行った際は注意が必要です。

ノミを甘く見ないで

高野 航平

シンプルにノミが寄生しているだけであれば、ノミの駆虫が治療となります。しかし、ノミの卵や幼虫、サナギなどを一度にすべて駆除することは困難です。清潔な環境を保つと同時に、ノミの繁殖サイクルを断つためのノミ寄生予防薬の定期的な投与(定期駆虫)を含めた総合的なノミ対策が必要になります。

一方、寄生だけでなくノミが原因でアレルギー症状などを発症してしまった場合は、アレルギー症状の治療が必要となり、皮膚のアレルギーは長期間の治療が必要になる可能性もあります。
大量吸血による貧血では、輸血が必要になるケースもあります。

どれも病気の種類、病気の程度によってかなり治療法や治療期間が大きく異なりますし、ノミの寄生は人畜共通感染症のリスクもあります。まずは、寄生させないことが大切です。

犬のノミの対処法

スポット薬 犬
愛犬の体の表面にノミを見つけた場合、すでに大量に繁殖していると考えましょう。
そのため、できるだけ早く駆除することが大切です。

ノミの駆除

病院で駆除薬を処方してもらいましょう。
駆除薬を使用すると、だいたい24時間で効果が表れます。
しかし、1回の駆除薬ですでに寄生しているノミの卵、さなぎ、成虫のすべてを駆除することは難しいと言われています。
そのため、何度か通院し、病院の指示のもと、適切な治療とケアをおこなうことが大切です。

ブラッシング

ノミの駆除は投薬が基本ですが、補助的な意味合いで、ブラッシングも有効だと言われています。
しかし、ブラッシングだけでノミを完全に駆除することは難しいです。
病院で投薬をおこない、その際に、ブラッシングをしてもよいか、タイミングはいつかなど、獣医師に指示を仰ぎましょう。

獣医師からブラッシングの許可が出たら、ノミ取り専用の、目の細かいコームを使用してブラッシングをしましょう。
ブラッシングの際は二次感染を防止するため、卵を飛び散らしたり、ノミを潰したりしないように注意することが大切です。

ノミを見つけたら、くしで取り、粘着テープにくっつけたり水に浮かべたりすると、二次被害が起こりにくいです。

部屋の掃除

愛犬がノミ寄生されていた場合、卵や死骸が床やソファー、ベッドにも落ちています。
部屋にいるすべてのノミを駆除するのは至難の業ですが、燻煙剤を使用したり、こまめな掃除や洗濯をしたりして、徐々に減らしましょう。

噴煙剤を使用する際は、使用中の部屋にペットが入らないように注意し、使用後はしっかり掃除をおこなってください。

ノミは家具の下のじめじめしたところやほこりがたまった部屋の隅、家具の隙間などにも生息しているといわれています。隙間のほこりもしっかりと掃除しましょう。

 愛犬のためにノミ予防を

ノミ 予防
愛犬がノミに寄生されてしまうと大変です。
しかし、予防は難しくありません。

駆除薬

駆除薬を予防薬として、基本的にはノミの活動が盛んになる春から秋までの期間に使用します。
主にスポットタイプとチュアブルタイプが処方されることが多いですが、ノミダニ駆除効果のあるスプレータイプ、錠剤タイプなども存在しています。

犬によっては体調を崩す場合もあるため、使用期間を含め、獣医師と相談をして、愛犬に合うものを処方してもらいましょう。

ここでは、処方されることの多いスポット薬とチュアブル薬についてご紹介します。

スポット薬

液状の薬を直接皮膚に垂らすタイプです。
犬が自分で舐めてしまわないように、首の後ろに垂らして使用します。
使用後は垂らした部分の被毛がべたつくことがあるので、触らないように気を付けましょう。

使いきりで、1回でおおよそ1カ月効果が持続します。
価格については病院によって差があるので、必ずかかりつけ医に確認してください。

チュアブル薬

チュアブルとは、噛み砕いて服用する錠剤状の薬です。
ビーフ風味やチキン風味など、犬の嗜好に合わせたものが多く販売されています。

効果が1カ月持続するタイプと3カ月持続するタイプのものがあります。
費用については、薬の種類や動物病院によっても違いがあるため、かかりつけ医に確認してください。

ブラッシング、シャンプー

毎日のブラッシングで皮膚と被毛の健康を保ちながら、早期発見につとめましょう。
定期的なシャンプーも効果的です。ノミ・ダニ予防の専用シャンプーを使用するのもよいでしょう。

しかし、ブラッシングとシャンプーでノミを完全に予防することは難しいといわれています。予防薬と合わせて、補助の役割として、取り入れましょう。

上記の予防法のほかに、ノミの活動が盛んな時期は、散歩前に虫よけスプレーを使用する、服を着せるなどもおすすめです。

食べるのが好きな子はチュアブル、そうでない場合はスポットがおすすめ

高野 航平

ごはんが好き、おやつが好きな子はフレーバーがついたチュアブルタイプ、おやつタイプがおすすめです。お薬を飲むことに抵抗がない子は、お薬タイプでもよいでしょう。

食が細く、食べさせることが難しい場合はスポットタイプの方が使いやすい場合があります。お薬にはそれぞれ、ノミダニしか予防できないもの、フィラリアやおなかの寄生虫まで駆虫・予防できるものなどさまざまです。

動物病院によっても、取り扱っているお薬の種類が違い、値段も異なります。使いやすいものを選ぶのがいちばんですので、わんちゃんの性格や飼い主様のライフスタイルに合わせてどれが適切か、かかりつけの先生にもご相談されるとよいでしょう。

スポットタイプのお薬の使用時期とトリミング時期が被る場合は、トリミング後にお薬を使用していただくことが推奨されることが多いですが、製品・体調によっても異なることがありますので、かかりつけの先生にご相談ください。

また、ノミ取りを目的に薬浴・シャンプーをしたいといった場合は、必ず一度診察を受け、どうぶつさんの状態に合ったものを処方・確認してもらうようにしましょう。

獣医師Q&A

犬を複数飼っているけど、1匹にノミが見つかったらどうしたらいいの?
ほかのわんちゃん、どうぶつさんにもノミが寄生する可能性がありますので、同時進行で同居している犬全員を治療・予防していくことが多いです。また、寄生の度合いによっては隔離といった措置をすることもありますので、診察をされた先生の指示に従ってください。
愛犬にノミがついていたけど、トリミングに行きたい。行っても大丈夫?
一般的なトリミング施設では、ほかのどうぶつさんへの寄生を防ぐため、お断りされることもあります。トラブルのもとになることもありますので、治療中でも利用できるか必ず事前に確認をとりましょう。
トリミングサロンを併設した動物病院や、看護師さんが最低限のカット等をしてくださる動物病院もありますので、かかりつけで確認してみてもよいと思います。

どのぐらいの期間、利用を控えた方がいいかといったことは、治療の進み具合にもよります。自己判断せず、獣医師に都度確認をとりましょう。

獣医師からのメッセージ

ノミの寄生は、わんちゃんやどうぶつさんだけでなく、人間の命にかかわることもある重大な病気です。
一番の治療は「そもそも寄生させないこと」にありますので、予防をしっかりおこないましょう。
寄生されないだけでなく、お友達のわんちゃんなどに寄生させないためにも、予防は大切です。
万が一ノミが寄生しているのを見つけたときは、すぐに動物病院にご相談ください。

まとめ

犬 笑顔
ノミは、必要な期間、定期的に駆除薬を使用することで、簡単に予防が可能です。
寒い季節、地域によって、駆除薬の使用を数カ月お休みすることもあるので、獣医師に相談して決めましょう。
室内に潜むノミは、季節関係なく活動し、真冬でもさなぎになり寄生する機会を狙っているかもしれません。
燻煙剤などを使用した室内の大掃除も定期的におこない、愛犬に清潔な環境を提供するように心がけましょう。