犬のヒート(生理)とは?

犬 首をかしげる
メスの犬には、妊娠するための準備としてヒート(発情)があります。ヒートは犬種に限らずすべての犬にあり、避妊手術をしない限り、高齢になっても続きます。

代表的な症状は、外陰部の腫れと出血です。出血は、最初は赤褐色でややドロッとしたものから、徐々に量が増え、ピーク時には赤色で水っぽい状態になり、その後、量が減っていくとともに淡いピンク色になっていきます。
ただし、発情出血の量には個体差があり、なかには出血がみられない場合やごく少量しか出血しない場合もあります。

また、犬のヒートは、人の生理ように子宮内膜が剥がれ落ちることがないため人間の生理痛のような痛みはないと考えられています。

犬のヒート(生理)はいつから?

聴診器 赤いハート
ヒートがはじまる時期は、性成熟を迎える生後5~18カ月ごろといわれていますが、小型犬の場合は生後5~13カ月ごろから、大型犬の場合は生後10~16カ月ごろからなど、体の大きさなどによってはじまる時期は異なります。

また、出血量が少ない場合は、自分で血をなめとってしまい、飼い主がヒートに気が付かない場合も。「最近、陰部をなめてるな」「陰部をよく気にしているようだ」と思ったら、出血がないか確認してみましょう。

犬のヒート(生理)の期間と症状

子犬 時計
犬のヒート(発情)は、ほぼ1カ月周期で起きる人間の生理とは違い、発情の周期に合わせて出血をします。そのため、発情出血ともいわれています。

発情周期

犬の発情周期(発情してから次の発情までの周期)は、6~10カ月あり、発情前期発情期発情休止期無発情期の4つの期間に区分されています。

発情周期は、小型犬よりも大型犬のほうが長い傾向にありますが、ほとんどの犬種が1年に2回、発情期を迎えます。

発情前期

卵胞ホルモンであるエストロゲンが増加し、外陰部が腫れや充血を起こします。同時に妊娠準備のために厚くなった子宮内膜が充血し、血液がにじみ出ることによって、陰部から出血をします。

平均的には7日といわれていますが、持続日数は、3~27日間と個体差が大きいです。膣分泌中の性ホルモンによってオス犬をひきつけるなど発情兆候がありますが、この時期にはまだ交尾は許しません。

発情期

オスの犬に交尾を許容するのがこの発情期です。持続日数は平均10日間ほどといわれていますが、5~20日間と個体差があります。

発情期がはじまり3日目ごろに排卵が起き、排卵後の60~108時間後(2.4~4.5日後)が受精に適した時期といわれています。もし子犬を生ませたい場合は、この時期に交尾させるといいでしょう。

以降は、エストロゲンの分泌量が減少していき、外陰部の腫れや出血は徐々に収まっていきます。また、出血の色も赤色から淡いピンク色へと徐々に薄くなっていきます。

発情休止期

受精卵の着床や妊娠の維持に重要な働きをする黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌される時期で、黄体期ともいわれています。オスの犬に交尾を許容しなくなってから、約2カ月間続きます。

無発情期

発情休止期から次の発情前期までの期間を指し、個体差はありますが4~8カ月間続きます。繁殖に必要なエストロゲンもプロゲステロンも少ない時期です。

ヒート(発情)の期間

ヒートにより出血する期間は、発情前期と発情期ですが、具体的な日数や出血量には個体差があります。

また、人の閉経のように発情周期が止まることはないと考えられており、避妊手術をしない限りヒートは一生続きます。しかし、高齢になるほど発情周期は不規則になっていき、出血量が少なくなっていく傾向があります。

ヒート前後に犬の体に起こること

犬 不調
ヒート中や前後の犬の体には、次のようなことが起きています。

生理(ヒート)前

発情前期では、外陰部がわずかに腫れはじめ、血が混じったようなおりものが出始めて妊娠の準備をはじめます。

生理(ヒート)中

発情前期になり、外陰部が腫れ、陰部から出血し始めると外陰部を気にして舐めるような仕草を見せ、オス犬を刺激するフェロモン臭を出すようになります。そのほかにも、下記のような症状が現れることもあるので、注意しましょう。

<生理中の犬の体調・行動>
  • 頻尿、尿漏れ
  • 便秘
  • 下痢、軟便
  • 落ちつきがなくなる、イライラする
  • 吠える、夜鳴きする
  • 体を擦り付ける(マウンティング)
  • 元気がなくなる
  • 食欲が低下する
  • 散歩を嫌がる

発情期のあと

出血が終わる発情休止期になると、妊娠している・していないにかかわらず、プロゲステロンというホルモンの分泌が増加します。

プロゲステロンやエストロジェンの影響で、個体差はあるものの排卵からしばらくすると乳腺が発達します。
また、妊娠をしていないのにわずかに乳汁が出たり、ぬいぐるみやおもちゃなどを使い、巣作りや子育てをしているようにふるまったりすることがあります。

これを偽妊娠といい、妊娠中と同じように偽妊娠中は警戒心が強くなっているため、ぬいぐるみやおもちゃを取り上げようとすると噛みつこうとすることも。無理にやめさせず優しく見守ってあげましょう。

ヒート中の注意点

犬 オムツ
ヒート中は、飼い主さんが気を付けてあげることでさまざまなトラブルを防止できます。

家での過ごし方

出血しているとソファやカーペットを汚してしまうこともあります。いつもいる場所にはタオルを敷いてあげたり、犬用のショーツやおむつをしたりなどの対処をしましょう。

ショーツやおむつの交換頻度によっては、おむつかぶれや膀胱炎を起こしてしまうこともあります。定期的に交換するようにしましょう。

偽妊娠の症状が重い場合やヒート中の食欲不振で普段の半分以下ほどしかごほんを食べないなどの場合は、一度かかりつけ病院へ相談してみてください。その際に避妊手術をすすめられる可能性があるので、手術について考えておくとよいでしょう。

散歩

オス犬は、メス犬が発する発情中のフェロモン臭に敏感になります。そのため、散歩中にオスに遭遇すると追いかけ回されるケンカに巻き込まれるなどのトラブルを招きやすくなります。オス犬の飼い主にも迷惑がかかってしまいます。

トラブルを避けるためにも、ほかの犬に会わない時間や道を選び、もし出会ってしまったときは距離をしっかり取るようにしましょう。リードや首輪が外れやすくなっていないかも散歩前にしっかりとチェックしておくことも大切です。

ドッグランやドッグカフェなど

オスの犬との接触を避けるためにも、ヒート中はドッグランやドッグカフェの利用は避けましょう。とくにドッグランは高リスクです。

施設によっては、ヒート中の犬の利用は断られる場合もあります。

また、ペットホテルも興奮したオスの夜鳴きがうるさいと苦情につながる可能性もあるので、ヒート中に預ける場合は、オスの犬がいない知人・親戚宅を考えましょう。

出血が止まってからも注意

高野 航平

発情出血が終わってるように見えてもまだヒート中のことがほとんどのため、ほかのワンちゃんと接触するのは、出血が止まってから1カ月ほど時間をあけると安心です。
また、陰部が汚れるのでシャンプーをしたいと思うことがあるかもしれませんが、その際はサロンではなく自宅でのシャンプーがおすすめです。

避妊手術という選択肢

犬 包帯 おなか
避妊手術を受けると、メス犬特有の病気である乳腺炎乳腺腫瘍子宮蓄膿症などのリスクを下げることができます。

また、愛犬が発情期のストレスや体調の変化から解放されるというメリットもあり、購入先や獣医師から、手術をすすめられることもあるでしょう。

避妊手術で病気のリスクを軽減

高野 航平

避妊手術をおこなうことでヒートがなくなります。そのため、これまでヒート中に気をつかってきたことへの負担が大きく減ります。
たとえば、お散歩などのお出かけのタイミングや周りへの配慮が軽減されますし、お部屋などを分泌物で汚すことも減ります。おむつやパンツなどの費用やお手入れの負担も減るでしょう。

また、人でも生理周期によって体調に波があるように、ワンちゃんでもヒート中は元気・食欲・性格などに変化が出ることがあります。そうしたワンちゃんの負担も減るのも、とてもうれしいポイントです。

ほかにも「すぐには実感しにくいメリット」としては病気の予防があります。年々、ワンちゃんたちも健康寿命が延びてきました。大切な家族と過ごす時間が延びることは喜ばしいかぎりですが、高齢化に伴い病気も増えてきています。病気には予防できないものもありますが、予防できる病気もあります。避妊手術は生殖器の病気やホルモンに関連する腫瘍の予防になるため、将来、避妊手術をしていてよかったと感じる日が来ると思います。

妊娠の予定がない場合には、避妊手術について、早めにかかりつけの獣医師さんに相談してみることをおすすめいたします。
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ヒート(生理)中のお手入れや便利グッズ

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ヒート中の出血量には個体差がありますが、出血量が多くて家のなかを汚してしまう場合はおむつやショーツを使うと便利です。

ただし、通気性が悪くなることで皮膚に湿疹ができて、かゆみが生じることがあるので、こまめに取り換えて皮膚の状態をチェックしてあげましょう。

また、なめて出血を取り除いている場合は、わざわざ拭いてあげる必要はありません。しかし、もし出血で毛が固まっている場合は、濡れたコットンや犬用のウエットティッシュで優しく拭いてあげたり、ぬるま湯で洗ってあげたりしましょう。

毛が長い犬の場合は、汚れやすい部分の毛をカットしてあげるのも清潔に保つための方法のひとつです。

こんなときは病院へ

病院
一般的にヒートによる出血は2~3週間程度だといわれていますが、1カ月を超える場合は、下記のような病気の可能性があります。動物病院で受診することをおすすめします。

子宮蓄膿症

子宮に膿がたまる病気で、免疫力が低下する発情休止期(黄体期)に子宮内に細菌が侵入、増殖することで起きる病気です。高齢になるほど発症しやすく、生理(ヒート)がしばらくなかったのに急に出血したというときは要注意。

5歳以上で発症することが多いですが、1歳でかかることもあります。陰部から膿が出るという症状が多いですが、出血に伴って元気や食欲がなく、水ばかり飲んでいる場合も子宮蓄膿症の疑いがあります。

出血を伴わないこともあるため、避妊手術をしていないメス犬の体調に変化があれば動物病院に受診すると安心です。

膣炎

どのメス犬もかかる可能性があります。発症すると外陰部から分泌物が出るため、犬が外陰部をしきりになめるように。ほかにも頻尿などの症状がみられます。

原因は膣やその付近の先天的な奇形、膣内に異物が入ったとき、膣腫瘍などが一般的です。
治療には、原因となるものの除去が必要です。

発情周期に沿って、自然と症状が治まる場合もあります。

膀胱炎

膀胱炎は、メスの犬がかかりやすく、細菌感染や、膀胱結石(結晶)、ストレス、アンバランスな食事などが原因で膀胱の粘膜に炎症が起きてしまう病気です。
頻尿や血尿などの症状がみられます。

ヒートでも尿に血が混じることがありますが、ヒートが終わっても血尿や頻尿、排尿困難が続く場合は膀胱炎の可能性があります。

獣医師に聞いた! 犬の生理(ヒート)に関するQ&A

ヒートが来る前に避妊手術を受けさせる予定だったのに、ヒートが来てしまった。病気のリスクなどに違いはある?
子宮卵巣を摘出する避妊手術を受けるタイミングによって、将来の病気の発生率に差があるというデータがあります。
たとえば、避妊手術は「乳腺腫瘍」の予防効果があるといわれています。はじめてのヒート(初回発情)を迎える前に手術を終えている場合には、乳腺腫瘍の発生率は1%以下となります。

手術を受ける時点で、これまでに何回のヒートを経験したかによって乳性腫瘍の発生率は異なり、回数が多いほど発生率は高い傾向があります。そのため、ヒート前もしくは1度目のヒートの後に手術がすすめられることが多いです。
オス犬とメス犬を一緒に飼ってる。ヒート中に隔離すれば、避妊手術を受けさせなくても問題ない?
まったく問題がないとは言い切れません。100%ヒートに気付いて隔離をするのは困難で、隔離するタイミングが遅れるという可能性もあります。
隔離できていたとしても、男の子としては同じ敷地内という近い空間にヒート中の女の子がいることを感じ続けることになります。性的欲求不満が募ることで問題行動や体調不良につながるかもしれません。隔離の仕方によっては脱走をはかり、交尾してしまうことも多々あります。

また、ヒート中以外の時期であっても、避妊手術をしてない女の子は生殖器の病気になるリスクや乳腺腫瘍のリスクが高いですし、去勢手術をしてない男の子は生殖器の病気や会陰ヘルニアなどのリスクが高いです。

【避妊手術を受けていない異性の組み合わせ】
未去勢の男の子と未避妊の女の子が同居する場合には“妊娠のリスク”だけでなく、交尾による“感染症リスク”も考えられます。隔離しても上記のようなリスクがあります。

【一方が避妊・去勢手術を受けていない異性の組み合わせ】
去勢済みの男の子と未避妊の女の子が同居する場合には、“妊娠のリスク”は低いですが、交尾の可能性は0ではないため、交尾による“感染症リスク”が考えられます。隔離をしたほうがいいでしょう。

男の子が去勢済みであろうとなかろうと、ヒート中の女の子の陰部から血も含んだ分泌物が出ており、いつもと違う匂いがしてると考えられます。そのため、周りにいるワンちゃんは男の子、女の子に関係なく、ヒート中の女の子の陰部や膣からの出血、分泌物をなめてしまうことも考えられます。それにより、ヒート中の女の子の陰部が不衛生になり、膀胱炎や膣炎などが起こる可能性も0ではありません。また、なめた子も体調に変化が出るかもしれません。
ヒート中にワクチン接種はできる?
予防接種には任意接種の混合ワクチンと接種義務がある狂犬病ワクチンがあります。
いずれのワクチンも獣医師の診察のもと、接種可能かどうか判断がなされます。接種可能かどうかの判断の目安としては、健康であることなどがあります。
ヒート中は食欲や元気に変化が出ることも多いため、ワンちゃんの状態によっては接種を推奨しないこともある思います。実際の接種の判断は獣医師が総合的に判断しますので、事前にヒート中であることを伝えておきましょう。

また、交配予定の場合にはワクチン接種のスケジュールも変わってきますので、かかりつけの獣医師さんによく相談しましょう。

獣医師からのメッセージ

年に1,2回訪れるヒートですが、ヒートが来ていることに気付くことが何よりも大切です。
そのため、日頃の健康チェック時に陰部の腫れや陰部からの出血の有無もチェック項目に入れるとよいでしょう。

ヒートがきた際には、その時のヒートの期間、症状、出血量などを記録しておくことで、高齢になってからのヒートの異常や変化に気付くことができます。

近年は避妊手術をしている子がほとんどのため、ヒートの相談をワンちゃん友だちとする機会は減っているかもしれません。困ったときには、かかりつけの獣医師さんに相談いただくと安心ですね。

まとめ

犬7匹
すべてのメスの犬に一生起きるヒート。いつか妊娠、出産をさせてあげたいと思うのであれば、この記事で紹介したような対処ポイントを抑えて、正しいケアをしていく必要があります。しかし、愛犬に出産をさせる予定がないのであれば、発情にともなうストレス、子宮や卵巣の病気リスクを考えると避妊手術をすることも選択肢のひとつとなるでしょう。

飼う前、あるいは愛犬が性成熟を迎える前までには、信頼できる獣医師に相談しながら、家族でよく話し合い、愛犬にとってベストな選択ができるようにしましょう。