犬にダイエットさせるべき基準

犬の体型を判断する目安として「BCS(Body Condition Score)」という指標があります。犬の外見と実際に触れた状態から、犬の体型(とくに脂肪の付き具合)を評価する方法です。

BCSによると、具体的に以下のような基準になっています。

BCS1=痩せ
BCS2=やや痩せ
BCS3=理想的
BCS4=やや肥満
BCS5=肥満


BCS4=やや肥満”と“BCS5=肥満”について詳しく見てみると、
  • BCS4=やや肥満:脂肪の沈着はやや多いが、肋骨は触れる。上から見て腰のくびれは見られるが、顕著ではない。腹部の吊り上がりはやや見られる。
  • BCS5=肥満:厚い脂肪におおわれて肋骨が用意に触れない。腰椎尾根部にも脂肪が沈着。腰のくびれはないか、ほとんど見られない。腹部の吊り上がりは見られないか、むしろ垂れ下がっている。


  • BCS3より高いと肥満であることが一般的ですが、犬種ごとに理想的BCSが異なるため、BCS3が理想体型ではないこともあります
    たとえば細身の犬種は2~2.5が理想体型だったり、足腰の負担がかかりやすい大型犬は2.5が推奨されたりします。

    よって自己判断だけでなく、獣医師からの評価も定期的に受けることをおすすめします。

BCS以外にもある、犬の肥満評価方法

高野 航平

肥満とは体脂肪が過剰な状態と定義され、肥満であると評価する方法はさまざまです。BCS以外には、下記のような評価方法があります。

① 体重からの評価方法:犬の理想体重よりも15~30%以上の増加してる状態を肥満とする
② 体脂肪からの評価方法:犬の体脂肪率が20~30%以上の状態を肥満とする
③ レントゲン検査やCT検査による評価方法
④ 超音波検査による評価方法
参考文献
飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/petfood_guide/pdf/full.pdf

犬のダイエット方法(食事)

食事をする犬
犬のダイエットも、人間と同じように食事の見直しと運動が重要です。ここでは、食事によるダイエット方法を一部紹介します。

フードを替える

低カロリーフード

摂取エネルギーが消費エネルギーよりも多いと、肥満の原因になります。運動だけで摂取したエネルギーを消費するのは難しいですよね。
しかし、フードの量を減らすと、必要な栄養素が摂取できなくなり、犬が体調を崩してしまうかもしれません。

ただし、適正な給与量をオーバーして与えていた場合は、徐々に適正な量に調節していきましょう。

その点、低カロリーフードはフード量を極端に減らす必要がなく、犬も満足感を得られます。また、ビタミンやミネラルといった栄養素も摂取できます。

低脂肪・高繊維フード

犬は脂質が多いフードを好んで食べる特徴があるので、高脂質フードは犬の嗜好性が高く、食いつきがよい傾向があります。

もちろん、脂質は健康を維持するために必要な栄養素ではありますが、肥満気味の犬は摂取する脂質を減らすことで無理なくダイエットできます。

また、繊維質の高いフードもおすすめです。消化吸収スピードが緩やかなため、満腹感が継続して得られ、おなかが空きにくくなるというメリットがあります。

ダイエットフード

どのフードを選べばいいか分からない! というときはダイエットを目的としたフードもおすすめです。

必要な脂質を残しながら、栄養バランスに優れているため愛犬の健康を損ねることなくダイエットができます。一般的に、ダイエット効果が現れやすいといわれています。

フードの変更は状況に応じて

高野 航平

肥満は、カロリー摂取量がカロリー消費量を上回ることで発生します。
総合栄養食を与えてる場合、そもそも過剰な量を与えている可能性もあるため、量を調節することで解消可能な場合には、種類の変更は必須ではありません。

しかし、総合栄養食の量を減らすことにより、カロリー以外の栄養素が欠乏する恐れがある場合や腹持ちが悪いため空腹のストレスを与える可能性がある場合、数カ月ほど量を調節したけれど一向に痩せる気配がないなどの場合には変更をしてもよいでしょう。

間食を見直す

犬の肥満の原因として多いのが、実は間食。おやつを見直すことで、標準体重に戻ったというケースも少なくありません。

基本的に、成犬用のフードはパッケージに書かれている給餌量で1日に必要なカロリーを摂取できるように作られています。

もちろん理想をいえばやめたほうがいいですが、しつけやご褒美として愛犬におやつを与えたいという飼い主さんもいるでしょう。
おやつは一日の必要カロリーの10%以内におさめ、1日に必要なカロリー摂取量をオーバーしないようにフードで調節してください。

ダイエットは長期(数カ月~数年)にわたるケースが多いので、無理ない範囲で間食をおさえる工夫をおこないましょう。

犬のダイエット方法(運動)

散歩する犬
運動不足のまま食事だけのダイエットをおこなうと、脂肪と一緒に筋肉量も減少してしまいます。筋肉量の低下は基礎代謝の低下につながり、エネルギーが消費されにくく脂肪がたまりやすい体になってしまいます。

愛犬が運動不足にならないように対策を考えてみましょう。

運動量を見直す

はじめに、今までの運動量を見直してみましょう。
小型犬で1日の運動量をそれほど多く必要としない犬種の場合、室内遊びだけで十分満足してしまうことがあります。
また、運動不足によるストレスが食べすぎにつながることもあるので、散歩は日課にするのがおすすめです。

疾患があるときは獣医師の指導の下で

高野 航平

散歩であっても整形外科疾患や循環器、呼吸器に疾患がある場合には、かかりつけの指導の下で運動を取り入れることが推奨されます。

散歩以外の運動をプラス

足腰や心臓、呼吸器などに問題がなければ、散歩に加えて運動する機会を増やすのもよいでしょう。
室内遊びやドッグランのほか、普段あまり使わない筋肉を使うことのできる水泳も効果的です。
水泳をさせる場合は、事故のないよう専門知識を持つ指導員のもとでおこなってください。

とくに水泳はダイエットに効果的

高野 航平

整形外科疾患をもつ犬にも適用可能であり、水泳による消費カロリーは散歩による消費カロリーの約2~3倍に相当するといわれています。
ただし、泳ぐのが嫌いな子もいるので無理強いはせず、水に慣れさせることからはじめ、かならず補助をしてあげることが大切です。体温の低下も考慮し、水温の管理も大切です。

いつもの散歩に一工夫

毎日の散歩に、ちょっとした工夫を取り入れるのもGOOD。
例えば、坂道のあるコースを選んだり、歩くペースに強弱をつけたり、散歩の途中に公園遊びを取り入れてみたりするのがおすすめです。
単調なウォーキングを続けるよりも、犬にとっても飼い主とっても継続しやすくなるはずでしょう。

犬が肥満になる主な原因は? 

首をかしげる犬
摂取カロリーが消費カロリーを上回ることが、肥満の根本的な原因と考えられます。では、なぜ摂取カロリーがオーバーしてしまうのでしょうか。詳しく原因を見ていきましょう。

食べすぎ

散歩も遊びも十分取り入れ運動量は足りているけれど、食べすぎにより摂取エネルギーが多く、太ってしまうというパターン。食事やおやつの与えすぎなどの原因が考えられます。

フードに記載されている“給与量の目安”はフードのみを与える場合の数字です。フードのほかにおやつを与える場合は、おやつのカロリー分、フードを減らす必要があります。
それらの量やカロリーを調整し、理想体重を目指しましょう。

運動不足

食事量は平均的だけれど、運動量が不足することで肥満になるパターン。

犬の適正な運動量は、犬種だけではなく年齢や性格、体格によって異なります。散歩をしていても遊んでいても、愛犬にとってその運動量が十分でなければ、運動不足になります。

運動不足により筋肉量が減少すると、基礎代謝量が低下。エネルギーが消費されにくい体となるため、摂取カロリーが消費されにくくなり、脂肪として蓄積してしまいます。

去勢・避妊手術

去勢・避妊手術により、生殖器を取り除くとホルモンバランスが変化し、基礎代謝が落ちます。また、性ホルモンのなかには食欲を抑えていたホルモンも存在するため、食欲は増す傾向があります。

つまり、体を維持するために必要なエネルギー量は減ったのに、食欲は増してしまう、という状態になるのです。

加齢

人間の老化と同じように、犬も歳をとると運動量が減ったり代謝が悪くなったりすることがあります。

その結果、生活習慣に問題がなくても、エネルギーが消費されにくくなるため太りやすくなってしまいます。

病気

甲状腺機能低下症やクッシング症候群といった内分泌系の病気が原因である場合も……。ほかの原因と異なるのは、急激に太るという点です。

  • いつも通りの食事量や運動量なのに太った
  • なんとなく元気がない
  • 多飲多尿になった

などの症状が見られる場合は、獣医師に相談してみましょう。

また、インスリノーマ、先端肥大症、下垂体機能低下症などの内分泌異常でも肥満の原因になります。

薬が影響して肥満になることも

高野 航平

これらの病気を患っていなくても、疾患を治療中に使用するお薬の影響で食欲が増すことがあります。代表的な例としてはグルココルチコイドや黄体ホルモン、フェノバルビタール、プリミドンなどがあります。

犬の肥満が招くリスク

不調の犬
犬の肥満には、さまざまなリスクが伴います。「ちょっと太ってるだけだから」と安易に考えていると、愛犬の健康を維持できない可能性も否定できません。

寿命が短くなる可能性がある

犬は人間の何倍も早く歳を取ります。愛犬に健康に長生きしてもらうためにも、飼い主が適正な体重管理を心がける必要があります。

肥満の犬は、適正体重である健康的な犬に比べて、寿命が短いという海外の調査結果があります。

犬種や年齢によって肥満による影響の差はあるものの、半年から2年以上寿命が短くなることも……。

循環器や呼吸器の病気

一般に肥満は血圧を上昇させ、それに伴い心臓に負担が現れるといわれています。それにより、心機能障害や高血圧といった循環器の病気にかかりやすくなります。

また、首の周りに脂肪が付き気管が圧迫されることで、呼吸機能が低下し換気障害を引き起こすことがあります。

肥満は酸化ストレスの増大にもつながる

高野 航平

肥満は酸化ストレスを増大させ、長期的な酸化ストレスにより心疾患以外にも肝疾患、糖尿病、泌尿器疾患、がんに関連する可能性が指摘されています。

内分泌疾患

肥満は糖尿病の罹患率をあげることが報告されています。また、もともと糖尿病を患っている場合は、病態を悪化させることもあります。
糖尿病はさまざまな合併症を引き起こし、死に至る危険もあるため注意が必要です。

運動器への負担

椎間板ヘルニアと肥満の関連性については実験的に証明されていませんが、関節炎の有病率が多いとの報告があります。
慢性化すると痛み止めを飲み続けなければならなかったり、立ち上がることが難しくなり、寝たきりになったりしてしまうという可能性も……。

獣医師に聞いた! 犬のダイエットに関するQ&A

軽度の肥満であればダイエットをすすめないこともある?
軽度な肥満であっても病気のリスクが高まります。
例えば、肥満により寿命が2年短くなったという論文では、ワンちゃんたちは虐待に当たらない程度の軽度肥満だったとのことです。
軽度であっても、肥満に気が付いた際には改善が必要だと考えられます。
参考文献
Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11991408/
ダイエットフードを食べない場合、手作り食でも代用できる?
栄養のバランスを長期的に計画でき、ワンちゃんが好んで食べ、体調にも支障がなければ手作り食でも問題ありませんが、やはり栄養の偏りが出てくることが多いので、専門家の協力なしの手作り食はおすすめはできません。

猫ちゃんと異なり、ワンちゃんは空腹であれば出されたものを食べてくれることがほとんどですので、数日の根比べをおすすめしています。
フードを食べないワンちゃんの多くは、フードを食べないことにより、さらにおいしいものが出てくることを学習しています。

フードを30分以内に食べない場合には、食器を片付け、2~3時間後に再度食べるかどうかを伺います。
食べなければ30分以内に下げるのを繰り返し、フード以外には出てこないことを学習してもらうことで、えり好みを防げます。
太りやすい犬種はいる?
ケアーンテリア、キャバリア、ダックスフンド、トイプードル、スコティッシュテリア、パグ、ヨークシャーテリア、バセットハウンド、ビーグル、コッカースパニエル、シェットランドシープドッグ、ウェルシュ・コーギー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、コリー、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ロットワイラー、秋田犬、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ニューファンドランド、セントバーナードなどがあげられます。
運動嫌いな犬はどうしたらいい?
年齢や性格により運動への意欲はさまざまですが、肥満を患っているワンちゃんの多くは体が重く動きづらかったり、整形外科疾患が隠れていて痛みや違和感があったり、循環器や呼吸器に負担があるため運動が苦手になる傾向があります。
それ以外にも飼い主にかまってほしい・だっこしてほしいというアピールの可能性も考えられます。
外での散歩など特定の運動を嫌がるのであれば、トラウマなどがあるのかもしれません。運動を嫌がる原因に応じた工夫が必要なため、かかりつけの先生と相談することをおすすめします。
肥満が招くリスク、とくに多いのはどんなトラブル?
整形外科疾患や循環器、呼吸器のトラブルが多いですが、それらの疾患を複数併発している子もとても多いです。
例えば、咳が止まらないとの主訴で来院される肥満のワンちゃんは心臓と気管の両方に支障が出てることが多いです。
また、原因不明の足の痛みが減量により改善されるケースも少なくありません。

獣医師からのメッセージ

本記事を読んでくださった方は、ワンちゃんの「肥満」に関心がある方かと思います。
実際に獣医師から減量を指示された経験や、昔と比べて抱っこした感覚が違う……、テレビや雑誌、ネットで見る同犬種とわが子の体型に違いを感じる……といった経験があるかもしれません。
肥満は気づかれにくい病気のため、本記事にたどり着いた方はとても素晴らしいアンテナの持ち主だといえます。

実際にダイエットを開始するときに覚えておいてほしいことは「気長に、気楽に」ということです。短期間での成果を求めることは、ワンちゃんの身体的かつ精神的負担となります。
また、一般に体重を指標とする方がほとんどかと思いますが、本記事でも紹介があった「BCS」を指標とすることが大切です。
自己流のダイエットにより体重は減少したものの、脂肪は残り筋力が低下した例や、肥満以外の症状につながる例もあります。
健康にダイエットをするためにも、獣医師の指導の下、長期的な減量計画を設定することをおすすめいたします。

また、太らせてしまったという自責の念や成果が出ないことへの焦りや不安などがあると思いますが、遠慮なく獣医師に相談できる環境づくりも長続き・成功のコツです。

まとめ

飼い主と犬
犬は、自分で体重管理をすることができません。そのため飼い主が食事や運動で、犬の体重を管理することが必要です。かわいい愛犬を前にすると、つい食べ物やおやつを与えたくなってしまうものです。しかし、与えすぎてしまうと健康を害することにつながるかもしれません。犬の健康寿命を延ばすためにも、肥満に気を付けながらお世話してあげましょう。