犬の外耳炎とは

犬の耳の構造
犬の耳は外側から順に、耳介外耳(外耳道)鼓膜中耳内耳と5つに分けて呼ぶことができます。外耳とは耳介(耳たぶと耳の入り口)から鼓膜への道のことです。

犬の耳は、鼓膜へつながるこの外耳道が90度に曲がっています。
外耳道をさらにふたつに分け、耳の穴から90度に曲がるところまでを垂直耳道、曲がったところから鼓膜までを水平耳道と呼びます。
耳と鼓膜がほぼ同じ位置にあり、まっすぐな外耳道を持つ私たち人間と比較すると、非常に特徴的な構造であるといえるでしょう。

この外耳道に何かしらの原因で炎症が起こった状態を「外耳炎」といいます。
犬の外耳炎のなりやすさには、犬種や体質も影響します。
たとえば、垂れ耳や耳毛の多い犬種の外耳道は通気性が悪いため蒸れやすく、結果として炎症を起こしやすいといわれています。
ほかにも耳垢がたまりやすい脂症の犬種や、アレルギー体質の犬も耳の炎症が起こりやすい傾向にあります。

外耳炎が、他の病気を引き起こすことも

中耳炎・内耳炎

外耳道の先、鼓膜よりも奥の中耳・内耳にできる炎症を「中耳炎」「内耳炎」と呼びます。
犬の中耳炎・内耳炎は、中等度及び重度の細菌性外耳炎が原因となることが多いですが、まれに耳管を通じて侵入した歯周病菌や耳道内にできた腫瘍が原因となることもあるため、注意が必要です。

炎症が内耳へと進行すると平衡感覚や顔面神経に異常をきたすこともあり、さらに進行すると髄膜脳炎などに陥って発作などの深刻な状態を招くこともあります。

耳血種

皮膚と耳介軟骨との間に血液などの体液が溜まり、膨れた状態になることを耳血種といいます。
これは外耳炎の痒みにより頻繁に耳を掻いたり、頭を振ることで耳介に強い衝撃が加わったりすることで起こります。

針を刺して溜まった体液を抜いたり、ステロイドなどの投薬治療を行ったりしますが、再発をくり返す場合は耳介を切開する手術が必要になることもあります。

犬の外耳炎の症状

耳をかく犬
外耳炎は痛みや痒み、不快感などを伴うため、症状は分かりやすく、早期発見がしやすい病気です。
次でご紹介するように耳を痒がっている、または耳を気にしているような様子を見かけたら、獣医師に相談しましょう。

外耳炎は症状が急激にひどくなるパターンと少しずつ悪くなるパターンがあり、再発や悪化で中耳炎に進行してしまうことも少なくありません。

外耳炎の可能性がある症状

  • 耳垢が増える
  • 耳を掻く
  • 耳を擦りつける
  • 耳の穴の周辺が赤くなる
  • 耳からにおいがする
  • 耳垢が黒っぽくなる
  • 頭を振る
  • 耳の脱毛がみられる
  • 耳に触れるのを嫌がる


このような様子があった場合には、外耳炎の可能性が高いです。

頭を振ったり、耳を掻いたりする行動は、外耳炎でなくても普段からするしぐさなので、頻度や回数が増えていないか、気を付けて観察しましょう。

中耳炎や内耳炎の可能性がある症状

中耳炎や内耳炎になると外耳炎より痛みが増し、下記のような症状が出ることがあります。

  • 耳だれ、膿状の耳垢が出る
  • 聴力が低下する
  • 食欲が落ちる
  • 元気がなくなる


さらには、首が傾いたままになってしまう斜頸(しゃけい)、目が揺れるように動く眼振(がんしん)などの神経症状や嘔吐がみられます。

ほかの神経症状としては、顔面神経麻痺の症状として瞼や唇が垂れ下がる、平衡感覚の異常によって歩き方がおかしくなる、旋回運動をするなどがみられます。
痛みによって攻撃的になるケースと沈鬱になるケースもあります。

犬の外耳炎の原因

ノミダニ
多くの犬が外耳炎にかかりますが、外耳炎を発症する要因はさまざまです。

細菌・真菌

外耳炎を引き起こす要因として非常に多いケースです。
耳垢の状態は細菌の種類によってさまざまですが、黄色や茶色になり、どろっとしたり、においがしたりします。

外耳炎を引き起こすブドウ球菌などの細菌や、真菌の一種であるマラセチアは、もともと健康な犬の皮膚や耳道に常在しているもので、それら自体は悪いものではありません。
しかし、耳道の炎症や変形、じめじめした環境などにより異常に増殖すると、外耳炎の原因となってしまいます。
あたたかい季節や湿度が高くなる梅雨時にはとくに気をつけましょう。

アレルギー、アトピー

食物アレルギーやアトピー性皮膚炎など、アレルギー性皮膚炎を基礎疾患にもつ犬の多くに、外耳炎の発症がみられます。

アレルギー性皮膚炎の犬の皮膚はターンオーバー周期が乱れていたりバリア機能が落ちていたりするため、乾燥しやすく、敏感で炎症を起こしやすいことが、外耳炎の発症に関係しているといわれています。

また、アレルギー性皮膚炎の初期の症状として、耳だけに炎症が起こるケースもあります。

寄生虫

代表的な寄生虫は耳ダニや耳疥癬とも呼ばれる「ミミヒゼンダニ」で、寄生されると犬は激しく痒がり、耳からは大量の黒い耳垢が出ます。

まず、ミミヒゼンダニは外耳道に寄生し、耳垢や体液などを食べて生活し、卵を産み付けます。その後、卵は孵化して3週間で成虫になり、そのまま2か月ほど犬の外耳道の中で生き続けます。

耳垢が黒っぽくなるのは、耳の中にいるダニの糞が混じっているためです。
ミミヒゼンダニのほかに、ニキビダニ、マダニなどが寄生することもあります。

異物

異物による刺激が原因となるケースです。耳の中に入る異物としては、虫や植物の種、抜け落ちた自分の毛などが多いといわれています。
異物が原因の場合は、急に激しく首を振ったり頭を傾けたりする仕草をします。そのようなケースでは、早めの受診をおすすめします。

腫瘍

耳道に腫瘍ができ炎症を起こすケースです。
腫瘍やポリープができると、膿や悪臭が出て、痛がったり痒がったりします。

良性のものではカリフラワー状のイボができる「パピローマ」ともいわれる乳頭腫や、基底細胞腫、耳垢腺腫などがあります。

悪性腫瘍の場合は、耳垢腺癌(じこうせんがん)扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)などがあげられます。

脂漏症

原発性脂漏症

遺伝性疾患で、下記などが好発犬種とされています。

  • アメリカンコッカースパニエル
  • イングリッシュスプリンガースパニエル
  • ウエストハイランドホワイトテリア
  • バセット・ハウンド
  • シーズー

続発性脂漏症

細菌や真菌などの感染症やアレルギー、内分泌疾患や腫瘍、偏った栄養バランスの食事内容など、さまざまな要因から二次的に発症します

脂漏症では皮膚の新陳代謝や皮脂の分泌に異常が起こるため、マラセチアをはじめ細菌性の皮膚炎や外耳炎に繋がるケースが多いです。

内分泌疾患

甲状腺機能低下症

免疫介在性の炎症や腫瘍、遺伝性要因によって甲状腺からのホルモン分泌が低下する疾患です。
甲状腺ホルモンは代謝を活発にする働きがあるため、不足すると皮膚の新陳代謝が悪化し、脱毛や脂漏症が起こることで、外耳炎を発症しやすくなります。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

脳下垂体の腫瘍化、副腎の腫瘍化、ステロイドの長期投与などによって、副腎からのコルチゾールホルモン分泌が過剰になってしまう疾患です。
過剰なホルモンによって皮膚が薄くなったり、脱毛が起こったりすることで、皮膚のバリア機能が低下し、外耳炎も起こりやすくなります。

環境

梅雨や真夏など、高温多湿な環境は耳の中が蒸れやすく、外耳炎が起こりやすいです。

犬の外耳炎の治療法・治療期間・費用

点耳薬を使う犬

治療法

愛犬が外耳炎になったら、どのような治療がおこなわれるのでしょうか。

耳洗浄

耳洗浄は発症原因にかかわらず効果的で、患部の状態を確認するためにも、はじめにおこなわれることが多い治療です。

しかし、耳道が腫れていたり、外耳道の奥まで炎症が進んでいたりした場合は、投薬で炎症をおさえてから、洗浄となることもあります。

洗浄の前に耳垢を採取して顕微鏡で検査をすることもあります。
1回の洗浄費用はおおよそ1,000~2,000円、治療期間や回数は汚れ具合や炎症の状態によって異なります。

投薬治療

【感染性外耳炎の場合】
軽いケースだと定期的な耳洗浄だけで済むこともありますが、必要に応じて投薬による治療なども必要となってきます。

処方される薬は、大きく分けて点耳薬と内服薬に分けられます。
点耳薬のなかには、毎日自宅などで点耳が必要なタイプのものや、週に1回や月に1回程度、病院にて点耳するタイプのものもあります。

自宅で点耳が難しい場合などは、後者の長く効くようなタイプのものを用いたり、内服薬で治療をしたりすることもあります。
原因や犬の性格によって使い分けることも多いです。

治療の流れですが、たとえばマラセチアや細菌などが原因の場合は、抗生物質や抗真菌剤が処方されます。
投薬による治療だけでなく、同時に定期的なシャンプーや耳洗浄でさらなる効果が期待されるため、これらは合わせておこなわれることが多いです。
また、耳洗浄や投薬治療に食事療法を組み合わせることもあります。
主治医と相談しながら治療をすすめていきましょう。

治療期間は通常、数日~数週間ですが、場合によっては長期におよぶこともあります。
治療費は耳洗浄と点耳薬セットで3,000~6,000円が目安です。

【寄生虫が原因の場合】
寄生虫の場合は駆虫薬を投与します。
たとえばミミヒゼンダニの寄生が原因の場合、ミミヒゼンダニの駆除ができるノミマダニ予防薬のスポット剤を首を後ろに塗布することが多いですが、駆除薬を点耳あるいは注射することもあります。
また、二次的な細菌感染を起こしている場合は、耳の洗浄や抗生物質の内服が必要になることもあります。

ミミヒゼンダニの治療期間は、初回駆除時に卵だったものが孵化して成虫になる約3週間後に再度駆除が必要で、完全駆除までに2~3回の駆除治療が必要となります。

費用は1回の駆除治療と顕微鏡検査で2,000~4,000円が目安です。

外科手術

腫瘍が原因の場合や、炎症が中耳・内耳と奥まで進んでしまった場合、慢性的な外耳炎で耳道が腫れて塞がってしまい、耳の奥の膿や分泌物が外に排出できない場合などは外科的手術が必要となります。

外側耳道切除、垂直耳道切除、さらには全耳道切除というケースもあります。
費用は病院や摘出方法、切除場所によって大きく異なるため、かかりつけ医に相談してみましょう。

基礎疾患の治療

アレルギーやアトピーが誘発原因の場合、治療に根気が必要です
外耳炎の点耳薬を投与しつつ、ステロイドやアトピーの薬を投薬したり、定期的なお手入れで清潔を保ったり、食事療法を取り入れたりすることもあります。

甲状腺機能低下症やクッシング症候群などの内分泌疾患がある場合は、ホルモン治療を並行しておこなう必要があります。
脂漏症の場合は定期的なシャンプーとバランスのよい食生活、必要であれば抗真菌薬でマラセチアの治療もおこないます。

耳の内視鏡を用いた検査・治療をおこなう病院も

高野 航平

近年はビデオオトスコープという耳の内視鏡を用いた検査・治療をおこなう動物病院もあります。
基本的には全身麻酔が必要ですが、鼓膜付近まで詳細に見ることができ、カテーテルや鉗子などを挿入することで効果的な耳洗浄や異物の除去、腫瘍の切除までもが可能です。
麻酔下での処置となるため、費用は動物病院に確認しましょう。

犬の外耳炎の予防

耳掃除をする犬
耳の構造、また、垂れ耳や長毛など、すべての犬は少なからず外耳炎発症のリスクを持っています
だからこそ、発症しないよう常に気を付けておく必要があるといえます。

外耳炎を引き起こす可能性のあるアレルギーやアトピー性皮膚炎などの基礎疾患がある場合は、そちらに重点をおきましょう。食事療法や定期的なシャンプーなどかかりつけ医と相談しながら、ケアをします。

耳を清潔に保つことを意識し、耳まわりの毛のカットやブラッシングなど湿気がこもらないようにすることも大切です。
耳掃除は専用の洗浄液を用いてシャンプーとタイミングを合わせるなどをし、定期的におこないます。

犬の耳掃除は、専用のクリーナー液を耳の中に垂らし、耳の根元を指で挟んで揉むように洗います。
耳掃除は月に1回程度が目安ですが、耳垢の多い犬であれば、1~2週間に1回程度での耳掃除が必要です
動物病院での健診時やトリミングサロンでのシャンプー時などを利用し、お願いするのもよいでしょう。綿棒の使用は汚れを耳の奥に押し込んだり耳を傷つける可能性があるので控えましょう。
また、耳道のバリア機能を弱めてしまうので、掃除のしすぎにも気を付けてください。

自宅では毎日のブラッシング時に、赤くなっていないか、においはないかなど、耳の中を確認する習慣を身に付けましょう。

獣医師に聞いた! 外耳炎についてのQ&A

外耳炎になりやすい犬種は?
外耳炎はどの犬種も患う可能性がありますが、以下の犬種はとくに注意が必要です。

キャバリアダックスフンドラブラドールレトリバーゴールデンレトリバーアメリカンコッカースパニエルイングリッシュコッカースパニエルビーグルシーズーなどは垂れ耳で耳道内が蒸れやすく、トイプードルミニチュアシュナウザーは耳毛が生えて通気が悪いため、外耳炎を起こしやすいです。

パグフレンチブルドッグアメリカンコッカースパニエルイングリッシュコッカースパニエルは耳垢が多く、細菌や真菌が繁殖しやすいため、注意が必要です。
アレルギーはどの犬種にもみられますが、柴犬ウエストハイランドホワイトテリアシーズーフレンチブルドッグはとくに症状が重く、外耳炎の治療も長引く可能性があります。
外耳炎は自然治癒する?
犬の耳道はL字型をしているため非常に蒸れやすい構造であることと、違和感や痒みを感じたワンちゃんが自分で掻いて悪化させてしまうこともあり、自然治癒することはほとんどないと言えるでしょう
市販薬は効果があるの?
インターネットなどで購入できる薬を自己判断でご使用されるのはおすすめできません
きちんとした製薬会社が作ったものであっても、原因と有効成分が合致しなければ十分な効果が期待できませんので、まずは原因を特定するために動物病院を受診してください。

また万が一鼓膜が破れていた場合、薬によってさらに症状を悪化させる危険性もあります。さらには外耳炎の根底にアレルギー疾患や内分泌疾患などがある場合は、そちらの治療のほうが大切になってきます。

獣医師からのメッセージ

外耳炎の原因は多岐にわたり、軽い症状で短期間で治癒することもあれば、基礎疾患の影響で長期の治療が必要になったり、重症化して手術が必要になったりすることもあります

長期間耳の痒みや痛みにさらされることは、犬にとっても大変不快であることは間違いありません。
外耳炎が悪化して中耳炎や内耳炎になってしまうと痛みが強くなるだけでなく、難聴、顔面神経麻痺、平衡感覚の異常などが起こり、さらに炎症が脳にまで及ぶと髄膜脳炎を起こし、命の危険があります

日頃からワンちゃんの耳をよく観察して、定期的にお手入れをして清潔にしていただくことは外耳炎の予防や早期発見にはとても大切です。
また、外耳炎は耳が痒いだけではなく、根底にアレルギーや内分泌疾患が隠れていることもあります。
ワンちゃんが頭をよく振っている、痒がっている、耳が赤い、臭いなどがあるときはなるべく早く動物病院へご相談ください。

まとめ

笑顔の犬
外耳炎は寄生虫、アレルギー、腫瘍などさまざまな要因で発症します。痒みや痛みを感じることも多く、治療が長期化することもあるため、早期発見、早期治療してあげることが犬にとっても飼い主にとっても大切です。
愛犬とスキンシップを楽しみながら、日々のお手入れ、ボディチェックをおこない、愛犬の異変にいち早く気が付けるようにしましょう。