ヨークシャー州にあるエア渓谷の名を持つエアデールテリア。テリアと言えばこの犬の姿を思い浮かべる人も少なくないのではないでしょうか。意外にも、エアデールテリアは多くの犬を作出したイギリスの中でも比較的新しい犬種で、その起源は19世紀頃とされています。
当時のエア渓谷周辺では、地域でカワウソや水鳥を狩るために能力の優れた水猟犬が求められていました。「ブル・テリア」や「マンチェスター・テリア」、「オールド・ブラックタン・テリア」といった複数のテリアを交配させた結果、誕生したのがエアデールテリアです。

高い知能と運動能力を誇り、水場のみならず陸上でも大活躍していたエアデールテリア。1860年代にはじめてドッグショーに出陳した当時は、「ウォーターサイド・テリア」や「ビングレー」といった呼称が付けられていました。現在の名前で登録されたのは、1878年のことです。
エアデールテリアの認知度が高まったきっかけは、1955年に公開されたディズニー映画『わんわん物語』でした。主人公の野良犬トランプは、エアデールテリアがモデルになっています。
現在は家庭犬として飼われることもあるエアデールテリアですが、勇敢な性格と優れた作業性を持つことから、警察犬としても活躍しています。

体高、体重エアデールテリアの理想的な体高は、オス58～61cm、メス56～59cm。体重は21～23kgです。
「スクエア型」と呼ばれる均整のとれたスタイルをしており、真っすぐに伸びた四肢にはしなやかな筋肉が付いています。

毛色、毛質エアデールテリアの毛色は、ブラック＆タン、もしくはブラックグリズル（黒をベースにグレーやレッドの毛が混じる）＆タンの2種類です。
犬種のスタンダードでは、胴体部分や首、しっぽはブラック、グリズルであることが求められ、手足などにブラックが入ることは望ましくありません。

また毛質は針金のように硬いワイヤーコートです。古くは水場で活躍していたことから、水に強い強固なトップコート、そして密集したアンダーコートを備えています。
ダブルコートの犬種ではありますが、短毛で抜け毛が少なく、比較的お手入れが容易であるといえるでしょう。

ウェルシュテリアとの比較エアデールテリアと似た犬として挙げられるのが、同じイギリスを原産とするウェルシュテリアです。スクエア体型に垂れ耳、ブラック＆タンのワイヤーコートなど、多くの共通点を持つ犬種ですが、体高・体重には歴然とした違いがあります。
体高56～61cm、体重 21～23kgのエアデールテリアに対し、ウェルシュテリアは体高36～39cm、体重9～10kgと一回り以上体格が小さいのです。2つの犬種を並べてみると、まるで親子のような体格差があることが分かります。

テリア犬と言えば、「攻撃的に吠えたてる犬」、「気難しい犬」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
体の大きなエアデールテリアですが、基本的には温厚で忍耐強い性格です。飼い主に対しては愛情深く、子どもやお年寄りに対しても優しく接します。さらに信頼した人に対しては、忠実で辛抱強く接することができます。
かつては猟犬として活躍していたものの、現代では家庭犬としてもマッチする優れた犬種と言えるでしょう。

元気で明るく、エネルギッシュな性格もエアデールテリアの魅力です。筋肉質な身体から繰り出される運動能力には、相当なものがあります。水場に、陸にとオールマイティに活躍していたことからも、その能力の高さが伺えますね。
陽気に遊び回るエアデールテリアの姿を見ていると、こちらまで元気をもらえるような力強さを感じます。

日本ではあまり知られていませんが、エアデールテリアは警察犬としても活躍できるほど利口で作業意欲がある犬種です。猟犬として暮らしていた当時は、飼い主であるハンターの指示に従い、自ら考えて行動していました。
優れた運動能力に加えて、自立心と判断力、聡明さを兼ね備えたエアデールテリアは、まさに勇敢な警察犬にぴったりですよね。

知能が高い故に、自分が気に入らないことに対しては反抗心や攻撃性を見せることもあります。力が強く身体の大きな犬種ですので、いざというときでもしっかり制御できるようしつけを徹底する必要があるでしょう。

「テリアの王様」とも呼ばれるエアデールテリア。テリア犬を好む人であれば、一度は飼ってみたいと思うのではないのでしょうか。
エアデールテリアと上手に暮らすためのポイントを押さえておきましょう。

食事のポイントエアデールテリアの食事は、1日2回が基本です。カロリーコントロールは適切に行い、フードは月齢や体重に見合う量を与えましょう。
よりたくさんの栄養価を必要とする子犬期には、「子犬用」フードがおすすめ。また成犬～シニア期には、高たんぱく低カロリータイプのものや、犬の関節や消化器をいたわる成分を含むフードを選ぶと良いでしょう。

必要な運動量、おすすめの遊ばせ方警察犬としても活躍するエアデールテリアは、かなりの運動量を必要とする犬種でもあります。お散歩は1日2回、各1時間程度確保する必要があります。
ボール遊びやフリスビー投げ、アジリティといったドッグスポーツでは、その運動能力を遺憾なく発揮します。また、ドッグランのような施設で思いっきり走り回らせると犬も喜びますが、エアデールテリアの猟犬気質を忘れてはいけません。他の小型犬を追い回すなど、思いもよらない行動に出る可能性を考慮し、決して目を離さないようにしましょう。

お手入れ方法エアデールテリアのお手入れは、ブラッシング、シャンプー、トリミングが基本です。
抜け毛が少ない短毛種ですが、コートを美しく保つ意味でも週に最低3回はブラッシングを行いましょう。
また、特有の硬いコートを作るためには、「プラッキング」と呼ばれる専用のナイフで不要な毛を抜く作業が必要です。プラッキングされた部分には、硬く強い毛が生え変わっていきます。
家庭犬として飼うのであれば、特にプラッキングにこだわる必要はありません。定期的なシャンプーにトリミングで、清潔を保ちましょう。

暑さ・寒さ対策ウェールズ生まれのエアデールテリアは、冬場の寒さに強く、夏場の暑さに弱い犬種です。
特に高温多湿な日本の夏を苦手とする犬が多いため、暑さ対策は万全に行いましょう。
エアコンなどの冷房機器で室温を一定に保つほか、クールマットやアルミマットのような専用グッズを使うのもおすすめです。また、暑さ対策としてプラッキングを行う飼い主さんもいます。

平均寿命は、10～12歳程度です。純血種の犬の中では短命傾向であると言えるでしょう。その一方、犬の寿命には個体差がありますので、体質や飼育環境によっては、平均よりも長生きするケースも少なくありません。

エアデールテリアを長生きさせるためには、健康面に気を付けることが第一です。基本は毎日の食事に十分な運動、そしてストレスフリーな飼育環境。すべて飼い主の心がけにより、改善できる事柄です。
さらに、犬種特有の病気や疾患にも十分気を配りましょう。犬の様子に変化はないか、排泄物はどうか、毎日の健康チェックを習慣付けましょう。

優れた作業犬であるエアデールテリアは、健康で病気の少ない犬種です。とはいえ、いくつか気を付けておきたい病気が存在しますので、飼い主として必ず押さえておきましょう。

外耳炎エアデールテリアのような“垂れ耳”犬種に良く見られる病気です。耳の中に湿気がこもりやすいため、細菌感染による赤みやただれ、かゆみが起こりやすくなります。犬の耳からイヤなニオイがしたり、しきりに耳を掻く・頭をブルブル振るような仕草が見られたりしたら、外耳炎の可能性を疑いましょう。

拡張型心筋症体格の大きな犬種に起こりやすい心臓の病気です。心筋に異常が起こることで、心臓本来の動きが弱まり、血液の循環にも異常をきたします。症状としては、元気の低下、食欲不振、重症化するとチアノーゼや不整脈、呼吸困難を引き起こします。
外側から見える病気でないため、定期的な健康診断で早期発見し、適切な治療を受ける必要があります。

僧房弁（そうぼうべん）閉鎖不全症犬に見られる心臓病の一種で、血液の逆流を防ぐための僧帽弁の異常により起こる病気です。初期症状としては咳や疲れやすさが見られ、重症化すると心不全状態となる危険性があります。

股関節形成不全大型犬に良く見られる病気で、成長期に関節に負担がかかることで股関節に異常をきたす疾患です。歩行時に足を引きずるといった症状から始まり、ひどくなると歩行困難や自立不可状態に至ります。
軽症の場合は、運動の制限や生活環境の改善で様子を見ますが、重症の場合は外科手術による治療が必要となります。